【五輪ゴルフ】銅の松山英樹は「痛恨のパー」に唇を噛み締め…トップ選手たちが本気の大混戦、勝負をわけたポイントとは

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ボギーを1つも叩かなかったシェフラー

 初日から首位発進し、誰よりも存在感をアピールしたのは松山だった。しかし、2日目の18番では池に落としてダブルボギーを喫し、3日目はパットに苦しんで4位タイへ後退した流れは、松山からメダルが遠のいたかに見えていた。

 実際、欧米のブックメーカーが発表したオッズでは、3日目を首位タイで終えた米国のザンダー・シャウフェレとスペインのジョン・ラーム、単独3位で終えたフリートウッド、そして松山より下の6位タイに控えていたシェフラーやアイルランドのローリー・マキロイのメダル獲得が予想され、上位陣の中で松山はメダルから一番遠い存在と見られていた。

 しかし、最後の最後まで何が起こるかわからないのがゴルフである。そして、国旗を背負って戦う五輪では、日ごろのツアー競技とは異なるプレッシャーも加わるせいなのだろう。最終日は大波乱の連続となった。

 首位タイだったシャウフェレは15番で池に落としてダブルボギー。一時は首位を独走していたラームは、最終日に誰一人ダブルボギーを叩かなかった14番のグリーン回りで苦戦して、まさかのダブルボギーを喫した。猛チャージをかけてきたマキロイも15番で池につかまり、やはりダブルボギー。いずれもメダルを取りそこなった。

 一方で、9つのバーディーを奪い、ボギーを1つも叩かなかったシェフラーのゴルフは実に見事で圧巻だった。「さすが世界ナンバー1だ」「金メダルにふさわしい」とフランスの大観衆も陶酔の視線を向けていた。

 フリートウッドは1番のボギーを2、3、4番のバーディーで補ってさらに伸ばし、7番のボギーをその後の5つのバーディーで補った上で一層伸ばした。金メダルに届かなかったという意味では、17番のボギーと18番のパーは心残りだろう。だが、まだメジャー・タイトルが無いフリートウッドにとって、五輪の表彰台に立ったことは「人生で最高の瞬間だった」。

ピンチをチャンスに変えた松山

 そして日本のエース、松山は6つのバーディーを奪い、シェフラー同様、ボギーを1つも叩かないボギーフリーのゴルフを披露。東京五輪では獲りそこなった銅メダルをしっかり手に入れ、見事、雪辱を果たした。

 とはいえ、小さなピンチは何度かあった。ティショットを右に出して木にヒットした5番、左ラフにつかまった6番はどちらも、松山の表情が瞬間的に険しくなった。しかし、どちらもピン3メートル前後を捉え、バーディーパットを捻じ込んだ。

 2打目が打てるライ、ピンを狙っていける状況だったことは、ある意味、幸運だったが、松山自身の冷静な判断と確実な実行力と実力、動じない精神力があったからこそ、ピンチをチャンスに変えることができたのだろう。

 後半は10番と12番でバーディーを奪ったが、それ以外はすべてパーだった。バーディーチャンスは何度もあったが、バーディーパットはいずれも入らなかった。しかし、大きなミスは1つもおかさなかったことが、何より素晴らしかった。

 そう、メダルを獲るためには、スコアを伸ばすこと以上に、いかにビッグミスを抑えるかが重要だった。

 そんな最終日の激戦を乗り切り、メダルを手にしたシェフラー、フリートウッド、そして松山の幸せそうな笑顔は、パリに詰め寄せた大観衆の心に、いつまでも残るのではないだろうか。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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