「放火殺人事件」から5年で「京アニってどんな会社?」の声も…難題山積の“アニメ業界”は本当に変わったのか

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技術継承をどのように行うのか

 京アニ放火殺人事件はアニメ業界に様々な課題を突き付けている。事件後、アニメスタジオの防犯体制は一層厳重なものになりつつある。例えば、あるアニメスタジオは通りに面した場所にあるが、一切看板を掲げていない。通りに面した出入口を敢えて封鎖したり、ホームページに住所を載せていないスタジオまである。事件の余波が、至るところに残っていることがわかる。

 また、あるアニメ会社の社員は「事件は起こるべくして起こった」と語る。「以前から、ファンが“俺のアイディアを盗んだだろ”と抗議してくるケースは、しょっちゅうありました。最近も、あるアニメ監督に“パクリだ”と言って嫌がらせを繰り返した女性に、慰謝料の支払いが命じられた訴訟があった。京アニに放火した犯人の予備軍みたいな人は一定数いたといえるし、よく今まで事件が起きなかったと思う」と振り返る。

 SNSを見ると、あるアニメに対して「パクリ」を連呼したり、スタジオやクリエイターのアカウントに対して執拗に粘着し、誹謗中傷のコメントを書き込んだりする人が見られる。こういった人物はまた同様の事件を起こしてしまうのではないか。悲劇を防ぐために事件を語り継いでいくことは、社会全体の責務と言っていいだろう。

 アニメ業界の人材育成の難しさも浮き彫りになっている。現在、日本のアニメ業界では人材を海外に依存しているスタジオが多く、国内のアニメーターが育っていないといわれる。そんな中、京アニは社内で人材育成を行うことで知られるが、同社の躍進の礎を築いた木上益治氏が事件で亡くなったダメージは大きいとされる。現地で取材したファンの意見を聞くと、失われた人材の穴を埋め切れていない可能性が高いし、人材育成が一朝一夕ではいかないことがよくわかる。

 アニメを日本の基幹産業だと考えている政府関係者もいると聞くが、現場は依然として問題が山積しているし、業界に対する支援が十分であるとはとても言えない状況にある。特に、前出の木上氏のような優れた能力をもつアニメーターの高齢化が進んでおり、技術の継承は今がラストチャンスだという意見もある。事件で亡くなった人々の志を真に継承していくためには、官民合わせてアニメ業界の問題を解決するための協議が欠かせないといえる。

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