「放火殺人事件」から5年で「京アニってどんな会社?」の声も…難題山積の“アニメ業界”は本当に変わったのか

国内 社会

  • ブックマーク

「京アニって何が凄いんですか?」

 2019年7月18日、京アニの第一スタジオが放火された日のことは鮮明に覚えている。未曽有の事件ということでマスコミ界隈も慌ただしかったが、印象的だったのは、マスコミ関係者がかなりの割合で京アニの名前すら知らなかったことである。新聞社の記者から電話で「京アニって何が凄いんですか?」「有名な作品って、あるんですか」と聞かれた。周りに詳しい記者が一人でもいるかと聞いたところ、「たぶんいないと思う」と言っていた。

 筆者はアニメ関連の取材をする機会が多いので、京アニの名は当然知っている。しかし、一般的に知られているアニメスタジオは、スタジオジブリくらいではないだろうか。子どもたちに人気の高い「プリキュア」シリーズや「ONE PIECE」を制作しているのは東映アニメーションという長い歴史をもつアニメスタジオだが、それすら名前を知らない人は多いかもしれない。

 2000年代、京アニはヒット作を連発し、その映像美は“神作画”と讃えられていた。30~40代のアニメファンは当時を鮮明に覚えている人も多いだろう。いわゆるアキバ系のオタクの間では、京アニの作品を見たことがない人がいないほどの知名度を誇ったものだった。しかし、昨今は膨大な量のアニメが制作されているせいか、京アニの作品も良作と評判は高いものの、埋没している印象はぬぐえない。

 調べてみると、10代、20代のアニメファンのなかには、京アニの作品を一作も見たことがないという人も多いようである。「呪術廻戦」のMAPPAや、「鬼滅の刃」のufotableなどの方が若いアニメファンには認知度が高いようで、神作画と呼ばれることが多い。アニメファンのなかでも、世代によって、京アニに抱く印象は大きく異なるようだ。

京アニの作画水準に手厳しい声も

 今年6月、京アニの看板作品の一つである「響け!ユーフォニアム3」の放映が終了した。おおむね好評であり、SNS上では「感動した」「さすが京アニ」「志が繋がった」と評価する声が相次いだ。その一方で、長年にわたって京アニ作品を鑑賞してきたファンからは、「ファンの間ではなかなか大きな声で言いにくい雰囲気があるけれど……」と前置きしたうえで、「明らかに作画能力が落ちていて、ショックだった」という意見も聞かれた。

「響け!ユーフォニアム3」は、北宇治高校の吹奏楽部の部長となった黄前久美子率いるメンバーが、全国大会“金”を目指して邁進する集大成的な物語である。いわゆる前作、前々作の複線回収もあったし、久美子と高坂麗奈の特別な友情もしっかり描かれた。物語としての評判は上々であった。

 その一方で、前出のファンは「最後の作品なのに吹奏楽の演奏シーンが少なかった」「楽器や演奏のシーンを描けるスタッフが育っていないのではないか」と指摘していた。現地で話を聞いた他のファンからも、「完結したのは良かったが、作画が安定していない回が多かった」「池田晶子さんや高橋博行さんなど、亡くなったスタッフが健在だったら……違う映像になっていたかもしれない」という声があった。

 京アニの顧問弁護士を務める桶田大介氏がマスコミのインタビューに対し、制作能力が戻ったわけではないと語っていたことからも、指摘は当たっているのかもしれない。京アニは「涼宮ハルヒの憂鬱」の「ライブアライブ」という回で、楽器の作画で有名になったため、古参のファンほど演奏の場面を厳しく見てしまう傾向があるようだ。

次ページ:技術継承をどのように行うのか

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。