いくら日本人が薄給とはいえ…「50円」増で喜ぶのは早い 最低賃金を上げる前にやるべきこと

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消費マインドを回復させるのが先

 今回、最低賃金の引き上げにあたっては、総理官邸サイドは国民への強いアピールになる「5%」という数字にこだわったという。この決定を受けて、岸田文雄総理は「今回の力強い引き上げを歓迎したい」と語っている。

 しかし、「力強い引き上げ」の結果、中小零細企業の多くが力を失う結果になっては、元も子もない。過去最大の「5%」、過去最高の「50円」。そんな数字にこだわるより、こうした数字を実現できる経済状況をつくり出すのが先だろう。

 日本の最低賃金が世界レベルで低いのは、まぎれもない事実である。労働政策研究・研修機構によると、この5年間の最低賃金の上昇率は、日本の11%に対し、英国は27%、ドイツは33%。今年1月時点での最低賃金は、米カリフォルニア州が約2,500円、英国が約2,200円など、日本の2倍を超えるところも少なくない。

 だから、それに追いつく努力をするのは当然として、その努力とは景気を浮揚させ、日本の経済力を高めることでなければならない。今回の場合、最低賃金を上げるなら、異常な円安を是正し、物価高による買い控えを解消し、消費マインドを回復させたのちでなければならなかった。

 そこができていないのに、インパクトを期待して「5%」を実現するように圧力をかけ、中小零細企業を追い詰めて、景気が浮揚する芽を摘む総理大臣と官邸。こんなことを繰り返しているから、日本は失われた30年から抜け出せないのである。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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