いくら日本人が薄給とはいえ…「50円」増で喜ぶのは早い 最低賃金を上げる前にやるべきこと

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雇い主の賃金は下がり続ける

 7月31日、日銀が追加の利上げを決めたことで、円相場は一時、1ドル=149円台まで値上がりした。しかし、それでもなお異常なまでの円安ドル高だといえる。

 日本は食糧自給率がカロリーベースで38% にすぎず、エネルギーにいたっては89%を輸入に頼っている。いわば世界に冠たる輸入大国なので、円安になれば、あらゆる物価は否応なく上昇せざるをえない。

 このところ、テレビのニュース番組やワイドショーが、物価高の影響について報じるケースは多いが、その原因についてはほとんど説明されない。だから気づいていない人も多いと思われるが、現在の物価高の原因は、そのほとんどが円安にある。要するに、円安が原因の物価高によって、実質賃金のマイナスが続いているのだから、日本がなによりも真っ先に取り組むべきは、円安を是正して、物価高が賃金の上昇率を上回る状況を改善することのはずである。

 現在の円安がもたらされた原因は、日米の金利差にあるのがわかっている。だから、まずそれを縮める努力をすることだ。今回の日銀の決定はそのひとつだが、遅きに失した感がある。

 そして、最低賃金の引き上げを急ぐべきでない最大の理由は、主として中小零細企業が、現在の物価高に対応できていないからである。多くの中小零細企業は、円高が原因の物価高によって原材料が急騰し、業績が圧迫されている。しかし、コストの増加分を価格に転嫁するのは難しい。転嫁すれば客が離れかねない。そのうえ最低賃金まで上がったら、さらに業績が悪化する。

 都内で酒販店を経営する男性に聞いた。

「現在、8人のパート従業員に最低賃金で働いてもらっています。1カ月の労働時間の合計は原則502時間ですので、最低賃金が50円上がれば、2万5,100円のコスト増です。しかも、仕入れの原価は軒並み上昇していますが、この物価高のなか、お客様は財布のひもを締めています。値上げしたら売れなくなるから、価格はほぼ据え置かざるをえませんが、それでも売れません。そこにきて最低賃金が上昇すると、ほんとうにきつい。当面、私が持ち出すかたちで賃上げするしかありませんが、私の生活自体がきつい。なにしろスーパーで買い物をしても、去年までは1回3,000円を超えなかったのが、最近は同じ内容で4,000円前後になる。結局、パートの人数を減らさなければならなくなると思います」

 賃金を上げる余裕が失われている企業に賃上げを強要すれば、雇い主の生活が厳しくなる。結果として、雇い控えにつながり、一人ひとりの労働は強化されかねない。倒産する企業も出てくる。そもそも、賃金が上がったばかりに就業機会が減るようでは、本末転倒もはなはだしい。

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