いくら日本人が薄給とはいえ…「50円」増で喜ぶのは早い 最低賃金を上げる前にやるべきこと

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最低賃金を上げる前にやるべきことがある

 たしかに日本人の給料は安い。OECD(経済協力開発機構)の調査では、1990年から2020年の30年間で、日本人の平均年収は18万円程度しか増えていない。アメリカにせよ韓国にせよ200万円以上増えているのに、である。

 そのうえ昨今は、異常なまでの物価上昇に見舞われている。今年は春闘の賃上げ率が5%と、33年ぶりの高い伸び率になったものの、生活実感に近い実質賃金は、上昇するどころか過去最長の26カ月にわたってマイナスを続けている。

 そんな状況だから、多くの人が最低賃金の引き上げを望んだこと自体は、当然といえる。それに応えるように、厚生労働省の中央最低賃金審議会は7月25日、最低賃金(時給)を全国平均で50円(5%)引き上げ、現在の1,004円から1,054円とすることを正式に決定した。全国最高額の東京では1,163円になる。

 しかし、現在の状況に対して冷静になることができれば、そして、より俯瞰的に眺めることができれば、いま最低賃金を5%も上げるのは暴挙だと気づくだろう。いずれ上げるべきではあっても、いまがそのときではない。上げる前にやるべきことがある。

 最低賃金とは、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額を定めた制度のこと。地域別に定められた最低賃金以上の給与を支払わない場合、使用者は最低賃金法40条にもとづいて50万円以下の罰金を科せられる。ほかにも、労働基準監督署の行政指導を受けるなど面倒なことになるので、事実上、使用者は拒むことができない。

 だが、じつは大企業にとっては、最低賃金はたいした意味を持たないことが多い。なぜなら、引き上げられる以前から、最低賃金を超える賃金を支払っているケースが多いからである。一方、最低賃金で働いている従業員が多い中小零細企業にとっては、いま最低賃金を引き上げると、後述するように死活問題になりかねない。

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