「会ったその日にする」と答える高校生が増えているワケ 背景にある“新しい恋愛のスタイル”

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 いまや、ネットで知り合って会ったこともないまま交際を始める中高生が少なくないという。彼ら「ネットの恋人」たちは付き合いの多くをオンラインで済ませる傾向にあるというが、やがて一つの壁にぶつかる――子どもたちの「現場」を丹念に追ってきたノンフィクション作家、石井光太氏が、スマホ登場以来16年、劇的に変わった子どもたちのこころと体を徹底レポートする。

「高校生の性に関する調査」で判明した衝撃的な事実

 愛知県で行われた「高校生の性に関する調査」で、衝撃的な事実が明らかになった。

「会ってからするまでの時間」についての解答だ。

 1カ月以内だけで見れば「その日」と答えた高校生が、「1~2週間」「2週間~1カ月」を大きく引き離して1位となったのである。全期間を通じても、「3~6カ月」「6カ月以上」とさほど変わらない数字だ。

 同調査によれば、2002年と2019年を比べれば、経験のある生徒は、半減している。にもかかわらず、「その日」と答える生徒がここまで増えている原因は何なのか。

 調査にかかわった高校の先生は次のように話した。

「この調査結果を見た時、教員として衝撃的でした。現場で見る限り、以前に比べて生徒たちは恋愛に消極的になっています。昔は恋愛しなければならないという空気がありましたが、今は恋愛をしないという選択肢が当たり前になってきているためです。

 それなのに、なぜ会ったその日にする子がここまで多いのか不思議でなりませんでした。それで生徒たちに詳しく聞き取りをした結果、〈ネットの恋人〉という新たな存在がかかわっていることが判明したのです」

 オンライン上で知り合い、一度も会わずにSNSを通して交際している相手を「ネットの恋人」という。

 なぜ、ネットの恋人の存在が、高校生の「会ったその日にする」という状況に拍車をかけているのか。

 先日上梓した『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)では、保育園から高校まで200人以上の先生方へのインタビューやアンケートを行った。そこから明らかになったデジタル時代の子どもたちの抱えている不都合な真実について紹介したい。

 現在の中高生の間では、ネットで知り合って、会ったこともないまま交際を始めるカップルが少なくない。

 学校の先生方によれば、こうした「ネットの恋人」の存在は2000年代後半くらいから少しずつ見られるようになり、スマホとSNSの普及により、2010年代半ば以降に急増したそうだ。

 彼らはどのようにネット上で交際を開始するのか。基本的には、SNSで気に入った相手を見つけ出し、ダイレクトメールを送るなどしてつながり、告白して交際するという流れになる。大人のようにマッチングアプリは使わず、SNSが出会いのプラットフォームになっているのだ。

 このようにして交際を始めるカップルは、その後の付き合いの多くをオンラインで済ませる傾向にあるという。“コスパ”“タイパ”を名目に、デートはビデオ通話でしたり、同時刻に一緒に動画やゲームを見たりして行う。

 出会いからデートまで一貫してオンラインで行っている中で、ぶつかる壁がある。肉体的な接触だ。こればかりは、SNSでは済ませられない。この時に至って、カップルは外で実際に会う必然性に駆られる。これが冒頭のアンケート結果と深くつながっている。

 先の先生は話す。

「生徒たちはネットの中で1カ月、2カ月と仲を深めていく。でも、肉体的な接触は会わないとできないですよね。それでリアルで会おうということになるので、そのまま相手の家やホテルへ行く。これによってアンケートでは『会ったその日にする』という回答が多くなるらしいのです。彼らなりの説明でいえば、リアルで会ったのは初めてだけど、実際はSNSでずっと会ってきたということなのですが……」

 オンラインでの出会いからデートまでをすべてリアルの付き合いとして捉えていれば、こうなるのは当然だろう。

 とはいえ、これを「新しい恋愛のスタイル」と言って済ますのは危険らしい。本書の取材に応じてくれた先生方の多くが語ったのは、付き合いがオンラインへ移行したことによって起こる数々のトラブルだ。

付き合っていると思い込み――“勘違い”から生まれるトラブル

 別の高校の先生は言う。

「ネット上で知り合ってちゃんとした告白がされていればいいんですが、今の子たちを見ると必ずしもそうじゃないんです。LINEのIDを交換しただけとか、ビデオ動画を送り合っただけとか、そんなことで一方的に付き合っていると思い込むことが多い。恋愛をし慣れていないか、もしくはリアルで人とかかわることに慣れていないために、そうした勘違いが起きて、いろんなトラブルが生まれているのです」

 学校では生徒の方から「恋人ができた」と自慢げに言ってくることがあるが、先生が知り合った場所を尋ねると「ネット」と答えるという。さらに、ネットで告白したのかと聞くと、生徒は首を振る。では、なぜ付き合っていると思うのか。その質問に、生徒は、「週2くらいでオンラインゲームをしているから」とか「画像を送り合う仲だから」と答えるらしい。つまり、オンラインゲームをしたり画像を送り合っているだけで、交際していると勘違いするのだ。

 先の先生は次のように話していた。

「最近、生徒がストーカーになるといったトラブルがとても増えています。片方は付き合っていると思っていても、もう片方がそうじゃないので、一方的に嫉妬したり、恋愛感情を募らせたりして執拗に絡む、追いかけるといったことをする。それで親の方から『うちの子が同級生にストーキングされている』という連絡がくる。こういう生徒の間に入って問題を解決するのはとても骨が折れます」

 私自身、2018年に熊本県で起きた女子高校生のネットいじめ自殺事件を取材したことがある。

 この被害者の女子生徒もまた、同級生の男子生徒に一方的に付き合っていると勘違いされていた。男子生徒は彼女が別の男性と一緒にいたことを「浮気」と言いだし、クラスメイトらと罵声を浴びせて自殺に追い込んだのである。

 事件にまでなるのは氷山の一角だろう。現場の先生たちによれば、生徒の一方的な思い込みによるトラブルは異なる形でも表れているらしい。

 関西の高校の先生は、ネットの恋人とのトラブルについてこう語る。

「生徒たちはよく『会ってみて騙された』といったことを言いますね。ネットでしかやり取りしていないと、実際に対面してみたら想像と全然違う。それを『騙された』『裏切られた』って表現するんです。私にしてみれば、それはあなたの思い込みよと言いたくなるのですが……。

 何にせよ、顔や性格が創造と違ったくらいならいいんですが、悪質なケースだと、お金を請求されたとか、DVされたとかいったことになります。女子の場合は、年上の異性と出会う機会が多いので、よりトラブルになりやすいです」

 この先生が口に出したのは“蛙化現象”という言葉だ。

 2023年の新語・流行語大賞にノミネートされた言葉で、本来的には「好意を持っている相手から、逆に好意を寄せられると、途端に気持ちが冷めてしまう」の意とされている。

 流行語としての蛙化現象の意味はまた少しズレることもあるようだが、先生によれば、今の子どもたちが口にするこの現象には、ネットの出会いによって引き起こされているものが少なくないという。

 先生方が懸念しているのは、こうしたトラブルが高校生に限らず、中学生、いや小学生にまで波及し、低年齢化していることだ。

 例えば、東京都の調査では、オンライン上で知らない人とやり取りしたと答えたのは、小学校低学年ですら5人に1人に迫る19.6%となっている。この一部が高学年になって本稿で見てきたような事態に陥ることは十分に想定しうることだろう。

 子どもたちを取り巻く環境は、大人の想像よりはるかに先に進んでいる。その現実をしっかりと直視しなければ、彼らにとっての安心・安全な社会を作り上げることは難しい。

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