「田舎の地主が億万長者に」「“タダでもいい”と思っていた土地が1坪100万円」 半導体工場用地バブルに沸く熊本県で何が起きているのか
港区の面積に匹敵する農地が1年で消滅
今、貴重な農地が毎日のように消えている。それも大量に、である。
田畑の地目変更などで農業ができなくなることを「潰廃(かいはい)」と言うが、農水省が発表した令和5年の熊本県の「潰廃面積」は2080ヘクタール(荒廃農地を含む)。実に東京・港区の面積に匹敵する農地が1年で消えた。同じように農地転用ブームに沸く千葉県は熊本よりも少ないが、1210ヘクタールが消えている。他にも千葉県以上に潰廃面積が大きい都道府県が7県あり、全国で1年に3万7000ヘクタールもの農地が消えた。この数字は年々増えていて、仮に今後も同様の水準が続けば、20年後に74万ヘクタール、つまり熊本県の面積に相当する農地が消えることになる。ちなみに、耕作放棄地は耕作しないだけで農地として存在するので潰廃面積に含まれない。
農水省は現在の農業人口116万人が、20年後には7割以上減って30万人になると予測している。農業の要は農地と農家である。それが想像もできないほど激減する未来の日本で、果たして食料を確保できるのだろうか。自給できなければ輸入すればいいとはいえ、外貨がなければ地獄を見ることになりかねない。
わずか数年で10倍以上
私が大津町に向かったのは、土地バブルの実態を知りたければ菊陽町よりいいと聞いたからである。
工場から1キロも走ると大津町に入る。菊陽町内では道路際に店らしい店がなかったのに、いきなりコンビニやガソリンスタンドが現れた。これが菊陽町より人口が少ない大津町の土地価格が上昇している原因だとは、この時点でまだ知らなかった。
「土地バブルの兆し? いえいえ、もう本格的なバブルですよ。投資目的の業者さんがあちこちで荒らしまくっています。今は誰がババをつかむかです」
長年、大津町で不動産会社を営んでいるAさんに、TSMCの進出をきっかけに沸き上がった土地バブルの状況を尋ねたら、こう言ったのだ。
「正直いってもう限界ですね。地元の人が買える値段じゃないですよ」
先ほどの県道が大津町に入るとすぐ国道325号線と交差する。最近、このあたりで取引された土地が2カ所あって、90万円と100万円だったという。思わず「1坪ですか?」と聞いた。「もちろん坪です」とAさんは笑う。水田やニンジン畑が広がる田舎の土地が坪100万円と言って誰が信じるだろう。
「TSMCが来る前の地価はいくらでしたか?」
「宅地で10万円以下です」
それがわずか数年で10倍以上の100万円にどうしてなったのか。
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