凶悪犯からダメ親父まで…名脇役「蟹江敬三」が語っていた我が「心の時代劇」

  • ブックマーク

 ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第27回は今年で没後10年となった名脇役の蟹江敬三(1944~2014)だ。

 ***

 70年代初めから数多くの映画やドラマに出演し、ナレーターとしても活躍した蟹江敬三。今年、没後10年となった名脇役は、時代劇でも味のある演技を見せていた。シャイな人なので、インタビューでは「俺の話なんか、ちっとも面白くないですよ」と言われたが、話はとても面白かった。

 30代まではチンピラや悪党の役が多かった。

 たとえば、勝新太郎が主演の映画「御用牙」(72年)。北町奉行所のはみだし同心・板見半蔵(勝)の得意技は、事件にからむ女に「吐け、吐け」などと言いながら、回転させたり、吊るしたり、女たちを快楽と苦痛で拷問すること。蟹江が演じる手下のチンピラ“まむしの銀次”は、「さすがダンナだ」「ここはひとつダンナの出番ですぜ」などと煽るのである。勝は自身のアイデアでどんどんシーンを変えてしまうのが有名で、この映画も大変だったようだ。しかし、銀次同様、蟹江も勝をリスペクトしており、この後もテレビの「新・座頭市」シリーズ(76~79年・フジテレビ)に数回出演している。

 エキセントリックな人物を演じることも多く、NHKの少年ドラマシリーズ「幕末未来人」(77年)では幕末にタイムスリップしてきた高校生二人を執拗に追いかける人斬り水戸浪士・樫岡、半村良が原作のNHKの金曜時代劇「天晴れ夜十郎」(96年)では江戸に堕ちてきた現代人の夜十郎(阿部寛)にからむ荒れくれ浪人・浪風を演じた。

極悪非道な双子役

 ただし、どちらの役もただ過激なだけではないのがミソで、樫岡は高校生に「暴力では世の中は変わらない」と諭されて動揺し、どくろの紋をつけた黒い着流し姿の浪風は片思いする女の前では少年のような純情ぶりを見せる。強面と内面のギャップの面白さは、この人ならではだった。

 現代ドラマでは、極悪非道な役柄も多い。中でもファンの間で伝説的に語られているのは、「Gメン’75」(75~82年・TBS)の殺人鬼・望月源治。源治は手斧殺人という凶行の末に死んだのだが、「そのすぐあとに、双子の弟ということで出てくれと言われて驚いた」という。その結果、凶悪な双子の弟・柿崎源造として登場している。
この他、「スケバン刑事」(85年・フジ)では南野陽子に極秘指令を出し、「ウルトラマンA」(72年・TBS)では牛の神様の怒りに触れて怪獣になったりしていた。

 そして、平成以降の代表作となったのは、中村吉右衛門が主演の「鬼平犯科帳」シリーズ(1989~2013年・フジ)での密偵・小房の粂八だ。江戸の凶悪犯罪を取り締まる火付盗賊改方長官・長谷川平蔵(中村)とその部下たちを描く。蟹江は番組開始以来、小房の粂八を演じてきた。

次ページ:粂八への愛着

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。