岸田首相「金メダル祝電」に批判が殺到 「歴代総理」の“露骨な人気取り”に識者も「国民の政治不信がさらに強まる」

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世論の変化

 この問題を考える際、興味深い新聞記事がある。東京新聞が2004年8月に掲載した「スコープ 連夜のTV観戦、祝福 首相 支持率回復へ五輪効果に期待 歴代内閣も恩恵」との記事だ。

「東京新聞が夏季五輪の前と後で内閣支持率の変化を調べると、三木武夫、中曽根康弘、竹下登、橋本龍太郎、森喜朗の5氏が首相だった際、支持率が上昇したそうです。東京新聞は《国民の五輪への高い関心や、選手の健闘が、政権への不満を一時的に和らげる効果があるのかもしれない》と分析。金メダル獲得一号の選手にお祝いの電話を入れたり、国民栄誉賞などを贈呈するなど、五輪を利用してイメージアップを図る首相が後を絶たない理由ではないかと指摘しました」(同・記者)

 だが、インターネットやSNSの普及で、「首相によるメダリストの政治利用」を苦々しく見る層も可視化されるようになり、世論は徐々に変わっているようだ。

「転換点だと思われるのが、2021年の東京五輪です。日本勢初の金メダリストとなった柔道男子60キロ級の高藤直寿選手に、当時の菅義偉首相が首相公邸から電話。『試合後の男泣きを見て、多くの皆さんが感動したと思う』と祝福したと報じられました。ところが電話の様子が当時のTwitter(現在のX)で生配信されたこともあり、ネット上では『露骨な政治利用』、『自分のおかげで東京五輪が開催できたと自慢したいのか』などと批判が殺到したのです」(同・記者)

鈍感な岸田首相

 岸田首相も角田選手に電話をかける様子を動画で記録し、それをXに投稿した。あれだけ菅氏に炎上したにもかかわらず前例を踏襲し、同じように炎上してしまったわけだ。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏は、「以前から相当数の国民が『また露骨な人気取りをやっているよ』と見透かしてきたにもかかわらず、岸田首相は角田選手に電話をかけたことになるわけです」と言う。

「国会議員が世論に鈍感で、我々には信じられない行動を取ることは珍しくありません。理由として考えられるのは、『とにかく1票でも票が増え、1%でも支持率が上がるならやってみよう』と考える政治家や首相の心理です。さらに岸田首相が3代続く世襲政治家ということも大きいでしょう。地方議員出身のような叩き上げの政治家は幼い頃から様々な世界、様々な社会階層の人々に接して成長します。ところが世襲政治家は敷かれたレールを進むだけですから、市井の人と交流することの少ない人生だと言えます。今、一般市民が何を求め、何を考えているのかという点に関して、鈍感なところがあると思います」

本質は裏金事件と同じ

 似たケースに「アベノマスク」がある。2020年4月、政府はコロナ対策として布マスクを全世帯に2枚ずつ配ったが、たちまち批判が殺到したことは記憶に新しい。

 当時の安倍晋三首相も世襲議員。また「全国民に布マスクを配れば不安は消えます」と進言したとされた総理大臣秘書官も灘高から東大、経産省という、庶民とは別世界の“超エリートコース”を歩んでいた。このため「これでは一般市民の気持ちに沿った政策が実行されるはずがない」と呆れる声が多数を占めた。

「私は国会議員に『国民の声を聞いていないでしょう?』と質問することがあります。すると必ず彼らは『選挙区で地元の声に耳を傾けています』と答えます。しかし、彼らが話すのは選挙区の“取り巻き”に過ぎません。スーパーで半額の値札が貼られた商品を買う人とは会話したこともないのです」(同・伊藤氏)

 特に自民党の国会議員が、どれほど“井の中の蛙”であり、世論に鈍感なのか、如実に示したのが裏金事件だった。

「裏金事件が明らかになっても、国民が何を求めているのかキャッチすることができず、自民党は稚拙な対応に終始しました。岸田首相が『また人気取りか』と呆れられても金メダリストに電話をかけることと、自民党の国会議員がコンプライアンス(法律遵守)を無視して裏金を作り続けてきたことは、軽重の度合いが異なるとはいえ、本質的には同じ行動だと言えます」(同・伊藤氏)

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