アヤ・ナカムラと共演した「世界最高の軍楽隊」から、セリーヌ・ディオンの傍らで雨に濡れた「超高級ピアノ」まで…“難解”なパリ五輪「開会式」を音楽ライターが徹底解説

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オケは教育練習用の楽器を準備

 今回の開会式は、野外のセーヌ河全体を舞台としたため、河畔のあちこちでパフォーマンスが散在的に開催された。そこに収録済みの映像が組み合わされ、完全に「TV放映用のイベント映像」と化していた。そのため、散漫な印象も拭えなかったが、コーナーごとの個性はまことに強烈だった。

 コンシェルジュリー(牢獄跡)では、〈ゴジラ〉なるバンドの演奏があった。これまた、フランスでは大人気だという。ここでは、建物のすべての窓に、自らの生首をもつマリー・アントワネットが大挙出現した。彼女は、斬首刑前の数日を、ここで過ごしたのだという。SNSでは、「露骨」「生々しすぎる」との声があったらしいが、この“自らの生首をもつマリー・アントワネット”は、1966年録音のバーンスタイン指揮、ニューヨークフィルのLP、ハイドンの交響曲第85番《王妃》のジャケットに、すでに登場している。欧米では、マリー・アントワネットといえば“断頭台に消えた王妃”なのだ。

 つづけて、ビゼー《カルメン》の「ハバネラ」が船に乗ったオペラ歌手のマリナ・ヴィオッティによってうたわれた。ところが、このオーケストラ演奏が、なんとクラウス・マケラ指揮のパリ管弦楽団だったのだが、紹介どころか映像すら皆無だった。

 なぜこの顔ぶれがわかったかというと、たまたまX(旧ツイッター)を見ていたら、パリ管の副コンサートマスター、千々岩英一さんの投稿を見かけたからだ。それによると、20時の本番のために13時に招集。コンシェルジュリーの大広間で6時間以上、待機させられたという。本番は野外、大雨のなかで演奏させられたようだ。「雨の中で弾くとまったく音が出ないという現象を初めて体験した」(千々岩さんの投稿)。

 演奏時間は約10分。悪天候を予想して、濡れてもいいよう、教育練習用の楽器を用意していた。なのに、まったく映らなかった。流れた音声はプレイバック(録音済み)だったという。ところが、このあと、トロカデロ広場で演奏するフランス国立管弦楽団は、雨天対策をしていなかった。まさか大雨に楽器をさらすわけにもいかず、急遽、パリ管が使用した練習用楽器が運ばれたという。

 国際映像ではわかりにくかったが、後半は大雨だった。中継でも、よく聴くと、すさまじい雨音である。ピアニストのアレクサンドル・カントロフが雨中で弾いている姿など、「もうやめてくれ」といいたくなった。しかも演奏曲がラヴェルの《水の戯れ》なのだから、これではシャレにもならない。

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