アヤ・ナカムラと共演した「世界最高の軍楽隊」から、セリーヌ・ディオンの傍らで雨に濡れた「超高級ピアノ」まで…“難解”なパリ五輪「開会式」を音楽ライターが徹底解説

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 パリ五輪2024の熱戦がつづいている。今回の開会式は、史上初めて、スタジアムではなく、野外のセーヌ河を中心におこなわれた。それだけにたいへんユニークな内容だったのだが、あまりにも盛りだくさんで、しかも次々と展開するので、「面白かったけど、意味不明な演出も多かった」という方もいるようだ。

 そこで、ユニークなエンタメ記事を寄稿してくれている、音楽ライターの富樫鉄火さんに、ひと味ちがった視点から、今回の開会式を“裏読み”してもらった。

アヤ・ナカムラと「世界最高の軍楽隊」

 今回の開会式で、もっとも驚いたのは、アヤ・ナカムラのシーンだった。マリ共和国(アフリカ)出身、フランスでは大人気の歌手らしいが、恥ずかしながら、わたしは初めて知った。そんな人気歌手と共演した軍楽隊が、なんと〈ギャルド〉だったのだ!

〈ギャルド〉といっても、吹奏楽に興味のない方には「?」かもしれない。NHKのアナウンサーは「フランス共和国親衛隊が入場します」と紹介していたが、おそらく広報資料に「Garde r epublicaine」と書かれていたので、直訳したのだろう。

 だが、彼らは日本では〈パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団〉、通称〈ギャルド〉と呼ばれている。

 その歴史は古い。ナポレオン三世が大統領に選出された「1848年革命」の年に、首都防衛軍の騎馬ファンファーレ隊として創設。その後はフランス共和国親衛隊直属となり、“世界最高の軍楽隊”と称されている。むかしは、金管楽器「サクソルン」を中心とした編成で知られた。「サクソルン」とは、いまではほぼ消えてしまったが、サクソフォンを開発したベルギーの楽器発明家、アドルフ・サックスがつくった金管楽器である。とてもやわらかい不思議な音色で、ソプラノからバスまで6~7種類ほどのパートがあった。この独特な響きこそ、〈ギャルド〉の専売特許だった。1933年、あの名曲《ボレロ》の吹奏楽版を、作曲者ラヴェル自身の指揮で世界初演したことでも知られる。

 基本的に、隊員はパリ国立高等音楽院の首席卒業生である(ただし、現在では弦楽器部門もありオーケストラ編成も可能なので、正式名称は〈Orchestre de la Garde r epublicaine〉=〈ギャルド・レピュブリケーヌ管弦楽団〉となる)。

 ちなみに、上野の東京文化会館は1961年に開館したが、オープニング公演の一環は、初来日した〈ギャルド〉のステージだった。ここで演奏されたバッハ《トッカータとフーガ ニ短調》はウルトラ級の衝撃だった。パイプオルガン曲を吹奏楽で演奏するとは! また、レスピーギ《ローマの松》では、あまりの大音量に「文化会館の壁が揺れた」との伝説まで生まれている。彼らは2週間の滞日中、全国8か所でコンサートを開催、日本のアマチュア吹奏楽団との交流演奏会にも積極的に参加。それどころか全日本吹奏楽コンクールにゲスト出演、特別演奏まで披露してくれたのだ。日本の吹奏楽界は、この〈ギャルド〉公演を機に、新しい時代に突入したのである。

 今回の開会式では、フランス学士院の建物から登場したアヤ・ナカムラと、ルーブル美術館前から演奏行進してきた〈ギャルド〉が、セーヌ河上のポンデザール(橋)上で“合流”。ともにステップを踏んで一緒に踊っていた。しかも、なかなかのノリノリぶりではないか! わたしも〈ギャルド〉来日公演やCDなどの解説をずいぶん書いてきたが、まさか踊る〈ギャルド〉を見るとは、夢にも思わなかった。

 散見したかぎり、日本では、アヤ・ナカムラについての報道は多かったが、共演が〈ギャルド〉だったとの解説記事はほんの少しだった。海外発のニュース映像では、ちゃんと「Aya Nakamura performe accompagnee par la garde republicaine」(アヤ・ナカムラが〈ギャルド〉と共演)と報じられており、現地では椿事であったことが、よくわかる。

 なお、よく聴いていると、バックに男声コーラスが流れていたのに気づいた方も多いと思う。あの力強い歌声は、フランス陸軍合唱団。フランスで唯一のプロ男声合唱団で、〈ギャルド〉との共演も多い。団員は男性だが、団長のオロール・ティラック中佐も、副指揮者エミリ・フルーリ少佐も「女性」である。

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