【パリ五輪】柔道史上初の親子「金」に挑む「斉藤立」 VS 聖火最終ランナー「テディ・リネール」 元メダリストが語る“勝負の鍵”とは

スポーツ

  • ブックマーク

斉藤立との対決

 二人の初対決は昨年5月の世界選手権ドーハ大会。192センチの斉藤が204センチのリネールに圧倒され、指導を3度受け反則負けした。

 その後のスペイン合宿で乱取りを重ねるなど、リネールの大きさには「慣れた」つもりだったが、今年3月のグランドスラム・アンタルヤ大会でも苦杯をなめた。序盤から攻勢に出て内股、体落しを仕掛け、二つの指導を奪った。が、残り31秒、内股を返され技ありを取られて逆転負け。これで2戦2敗。だが、確実にその差は縮まっている。日本のファンとしてはパリ五輪の決勝で二人の対決を期待するところだが、必ずしも二人が優勝争いの中心とは限らないと溝口は言う。

「テディと立が決勝で戦ってくれたらいちばんいいのですが、男子の重量級は強豪ぞろいです。とくに旧ソ連の国々が強い。韓国もまた力をつけています」

 世界ランキングを見ると(6月26日現在)、1位は韓国のキム、2位タソエフ(ロシア)、3位ラヒモフ(タジキスタン)、4位ツシシビリ(ジョージア)と続く。序盤で彼らと当たる心配はないが、準々決勝、準決勝での対戦は十分あり得る。決勝まで二人が勝ち上がれるか予断を許さない。

野村と井上に憧れ

 リネールは1989年4月、フランスの海外県グアドループで生まれた。柔道を始めたのは本土に移った後、5~6歳の頃だ。幼少時は、水泳、ゴルフ、スカッシュ、サッカーなどのスポーツに触れたが、やがて柔道一本に絞った。15歳でフランスの強化選手に選ばれた頃、リネールの憧れは野村忠宏と井上康生だった。2007年の世界選手権2回戦でその井上と対戦。返し技で効果を奪って勝った。そして、18歳で世界王者に輝いた。最初の試練は08年の北京五輪。優勝を期待されながらタングリエフ(ウズベキスタン)に敗れ銅メダルに終わった。12年のロンドン五輪、16年リオ五輪では連覇を果たし汚名をそそいだが、東京五輪は当時世界ランキング1位バシャエフ(ROC)に敗れ銅メダル。野村に並ぶ3連覇はならなかった。それだけに地元パリでの金は大きな悲願だ。

 リネールと斉藤の勝負を分ける鍵はどこにあるか?

「立は左足を前に構える。リネールは右。けんか四つです。でも海外の選手は結構両方できる。リネールもできます。海外の選手たちに変幻自在の組手戦法でこられた時、立が戸惑わずにやれるかどうか。経験が浅いだけに盤石じゃない」

 リネールはどうだろう。35歳の年齢は影響しないか。聞くと溝口は言った。

「テディは中学生の頃から知っているのでかわいい存在です。でも近年、お父さんになって変わったなあと感じます。子どもが2人。さすがにしっかりした。以前は自分のことばっかりだったけど、いまは家族に向ける思いやりをすごく感じる」

 日本柔道最大のライバルだが、そんなリネールの一面を知ると、「地元での戴冠」を願う気持ちも胸の中にふくらむ。

小林信也(こばやしのぶや)
スポーツライター。1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。