「アポロ11号」月面着陸はニセ映像だった? 話題の映画で考察する“陰謀論ブーム”の歴史

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あくまで「別の角度から見た珍説」

「ある種の病原体や病気の感染拡大は、ある組織による慎重かつ秘匿された活動の結果である」――そう思う:5.4%、ややそう思う:22.9%

「異星人からの接触の証拠は、一般市民に伏せられている」――そう思う:5.8%、ややそう思う:21.3%

「人格支配を可能にする技術は、人知れず使われている」――そう思う:11.9%、ややそう思う:41.0%

「多くの重要な情報は、私利私欲のために市民から慎重に隠蔽されている」――そう思う:11.3%、ややそう思う:34.9%

 以上は、大阪経済大学情報社会学部 の秦正樹准教授が、2021年8月、2001人を対象に実施したアンケートの結果である(同氏の著書『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』中公新書、2022年10月刊より)。

 このアンケートでは、ほかにもUFOや宇宙人などについての驚くべき設問に、多くのひとが「そう思う」「ややそう思う」と平然と回答している。秦氏は同書で〈日本人の3~5人に1人が陰謀論的信念を有している〉と述べ、陰謀論はわたしたちの身近に存在すること、それらに関心をもっているひとが意外に多いことを示してくれる。

 先の中年編集者氏が、同書のアンケート結果を示しながら語る。

「本来、陰謀論は、“別の角度から見た珍説”として楽しむべきものだったんです。ところがその伝播の仕方が、昔とちがって、いまはネットのおかげで、検証もされないまま瞬時に世界中に広まってしまう。そこが問題です。2021年1月に起きた、アメリカ連邦議会襲撃事件が、その典型です。首謀者たちは、Qアノンと称される極右派の陰謀論を妄信している連中でした。現代の陰謀論は、アポロが月へ行ったとか行かないとか、そのレベルの話を書籍で刊行していた時代とはスピード感がちがう。先日の都知事選における掲示板ジャックなども、以前だったら陰謀論レベルだったのが、ついにリアルに表にあらわれたようなものです。あんなことが平然と起きる以上、自分たちが知らない妙な陰謀が、ほかでも起きているにちがいない――そう感じたひとが増えたのではないでしょうか。同書の最終章のタイトル通り、〈民主主義は「陰謀論」に耐えられるのか?〉と言いたくなります」

 冒頭で紹介した映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」も、まさに陰謀論にまつわるストーリーだが、そこはさすがに手練れのスタッフたちによってつくられただけあって、適度にコメディ・テイストを盛り込んで、楽しさあふれるエンタテインメントに仕上がっている。

「実はこの映画のプロデューサーは、主演のスカーレット・ヨハンソン自身なんです」

 と先の映画ジャーナリスト氏が語る。

「彼女が設立した製作会社で企画が立ち上がり、当初ヨハンソンはプロデュースに徹するつもりでした。しかし、あまりに脚本の出来が良いので、ケリー役での主演を決意したそうです。近年、彼女はマーベル映画におけるセクシー・アクション女優のイメージが強烈でしたが、これで新境地を開いたような気がします」

 月面着陸のフェイク映像をつくるよう命じられたケリーは、政府が仕掛ける壮大な“リアル陰謀論”に応じるのか? そして、1969年のあの月面映像は、果たしてホンモノだったのか、それともケリーがつくったフェイクだったのか? そこは映画館でご確認いただきたい。猫好きにもおすすめします。こんな陰謀論なら、“ニャン”とも信じたくなること確実ですから。

 ***

「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」
原題:FLY ME TO THE MOON
7月19日(金)より全国の映画館で公開中
US公開:2024年7月12日
監督:グレッグ・バーランティ(『フリー・ガイ』製作)
出演:スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム、ウディ・ハレルソン

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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