東海道新幹線のバックアップをどうするか?問題 北陸新幹線の「米原ルート」が再燃中
議論百出の「3案」
計画時、敦賀駅から大阪までのルートには3つの有力候補案があった。第1案は、滋賀県の米原駅へとつなぐ米原ルート。米原ルート案は米原駅から大阪までは東海道本線に乗り入れる案と米原駅で乗り換える案の2案が検討された。後者は北陸新幹線の利用者には乗り換えという不便が発生するが、大阪まで線路を建設しなくて済むのでコストを抑えられる。
第2案は、敦賀駅からJR湖西線と並行するように走って京都・奈良を経由して大阪へと至る湖西線ルート。
第3案は、敦賀駅から進路を西へと向けて日本海側にある小浜を通ってから京都・奈良を通って大阪へと至る小浜・京都ルート。こちらは有力3案の中でもっとも線路の総延長が長いので、建設費が割高になることや最終目的地である大阪までの所要時間が長くなることがネックになっていた。
この中で、もっとも賛意を得られたのは第1案の米原ルート案だった。JR西日本だけではなく、大阪府の橋下徹知事(当時)も早期に着工したいという思いから2010年に近畿ブロック知事会で米原ルート案の取りまとめをしている。
橋下知事が米原ルートを支持した主な理由は、建設費が総額576億円と安価だったことがなによりも大きい。最長になる小浜・京都ルートの試算は約1,422億円と倍以上の金額だった。
それでもJR東海と滋賀県は米原ルート案に難色を示した。東海道新幹線は運行本数が多く、とても北陸新幹線が乗り入れる余裕はない。仮に米原駅から東海道新幹線に乗り入れるのではなく、接続という形にしても事情は変わらない。
北陸新幹線との乗り換えが生じる米原駅に多くの列車を停車させるダイヤを組まなければならなくなるからだ。JR東海は2003年に品川新駅を開設し、同年のダイヤ改正でのぞみ中心の運行体制へと移行している。北陸新幹線が米原駅に接続することになれば、東海道新幹線の停車本数を増やさなければならなくなるだろう。それは東京―名古屋―大阪を短時間で結ぶことを最大化しているJR東海にとって大きな負担となる。
滋賀県が米原ルートを嫌悪するのは、建設に多額の工費負担を強いられるからだ。負担が大きい一方で、北陸新幹線が敦賀駅から米原駅へとつながっても、滋賀県が得られるメリットは少ない。他方、京都府・大阪府のメリットは大きいが、米原駅で接続という形なら新たに線路を建設する必要は生じないから京都府・大阪府には負担が生じない。これでは、滋賀県だけが建設費を負担しているように見えてしまう。
そうした滋賀県の事情を斟酌して、橋下知事は本来なら滋賀県が負担する工費の大部分を大阪府・京都府が肩代わりすることを提案していた。
北陸新幹線の敦賀駅以南のルートを巡る議論は百出して、最終的に第3の小浜を経由するルートで建設されることが決まった。小浜を経由するルートでの開業は早くても2040年以降を予定している。
米原駅ルートが再燃
しかし、鉄道関係者をはじめ沿線自治体の関係者などから話を聞いて回ると、総じて2040年の開業は難しいとの感想が漏れてくる。そうした見通せない開業時期への不安が重なり、北陸新幹線の早期開業を望む人たちから米原駅ルートが再燃しているのだ。
東海道新幹線の不通によって東京―名古屋―大阪間の迂回ルートとして北陸新幹線が再注目されることになったが、そのほかにも今年になって開業が延期された中央リニアも東海道新幹線のバックアップに位置付けられる高速鉄道だろう。
リニアは東京(品川)―名古屋間を先行開業させる予定で計画が進められているが、同区間が開業するだけでも東京―名古屋間のバックアップとして機能する。それだけに、北陸新幹線より迂回路としては有力案のようにも見えるだろう。
だが、東海道新幹線の運行事業者はJR東海で、今回の不通もJR東海が起こした事故に起因している。当然ながら、JR東海が「今回のような事故が起きたことを想定して、そのバックアップのために中央リニアのも東京(品川)―名古屋間の早期開業」といった話を持ち出すことはない。そんなことを言い出したら、火事場泥棒のそしりは免れない。
そして、このタイミングで北陸新幹線建設促進石川県民会議の総会が開かれて、米原ルートも含めて北陸新幹線の整備を早急に求める決議案が採択された。北陸新幹線建設促進石川県民会議の総会が開かれたのは東海道新幹線の不通とは無関係だが、北陸新幹線の沿線自治体関係者や北陸選出の国会議員が大阪まで整備を急ぐ事情は、単に早く開業することで得られる経済効果や地域振興だけではない。
先述したように、北陸新幹線は東海道新幹線のバックアップとして計画された。中央リニアにも東海道新幹線のバックアップという側面がある。東海道新幹線のバックアップの必要性は誰もが認めるところだろう。
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