「どの程度のキス?」「その時は着衣?」…エンタメ業界のインティマシー・コーディネーターが明かす「意外とウェルカムな現場が多い理由」

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嫌なことにはきちんと「NO」を言う

 だが、より根本的な働きかけは、西山さんが“持ち出し”で時折行っている「境界線(バウンダリー)を知るためのワークショップ」のようにも思う。「境界線」とは自分と他人の境界線のこと。それを意識することによって、他者の気持ちの責任を負わず、自分の気持ちを軽んじず、事に臨むことができる――つまり他者によって心理的にコントロールされない「個人」を確立することができる。

「日本人は、たとえイヤだと思っても『YES』と言うことがいいことであるかのように教え込まれているところがあります。特に一定の権力勾配の中では、『NO』と言えば嫌われる、ダメな人間と思われる、と思ってしまいがちなんですね。そういう『言えない風潮』ゆえに、『自分が何がイヤなのかわからなくなっている』という人も多いんです。モヤモヤしつつもつい飲み込んでしまったけれど、後でよく考えてみたらイヤだったんだ、ということって誰にでもあると思うんですが、そうならないためには『自分は何がイヤなのか』を知ることが必要で、それによって自分を守ることもできます。

 すべてに『NO』と言えというのではなく、自分の気持ちを把握した上で、嫌なことにはきちんと『NO』と言えることが大事。ワークショップに参加したある俳優さんは『「嫌だ」と思ってしまうと、自分がやれることを狭めてしまうのでは、と思っていたんですが、“できないことがわかる=できることがわかる”で、逆にすごく広がった』と。恐れることはないと思うんですよね」

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「自分は何がイヤなのか」「それをしっかり伝えられるか」「周囲はどう受け止めるべきか」――こうした「人間関係の基本」は撮影現場のみならず、人が集まるあらゆる場所で意識すべきもの。第1回【「男性に都合の良いシーンが多い」「いまだに前張りを使わない現場がある」現役インティマシー・コーディネーターが語る日本の映画・映像業界の現実】では、認知の歪みとハラスメントの関係などについて伝えている。

渥美志保(あつみ・しほ)
TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。Yahoo!オーサー、mi-mollet、ELLEデジタル、Gingerなど連載多数。釜山映画祭を20年にわたり現地取材するなど韓国映画、韓国ドラマなどについての寄稿、インタビュー取材なども多数。著書『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)が発売中。

デイリー新潮編集部

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