「どの程度のキス?」「その時は着衣?」…エンタメ業界のインティマシー・コーディネーターが明かす「意外とウェルカムな現場が多い理由」
第1回【「男性に都合の良いシーンが多い」「いまだに前張りを使わない現場がある」現役インティマシー・コーディネーターが語る日本の映画・映像業界の現実】の続き
映画「先生の白い嘘」のインティマシー・コーディネーター(IC)を巡る炎上騒動は、総合ニュースサイトENCOUNTに掲載された監督のインタビュー記事がきっかけだった。主演俳優・奈緒さんからの要望があったにもかかわらず、監督の「間に人を入れたくない」という思いから導入が見送られたことが問題視されたのだ。
そもそも、ICの役割とはどういうものなのか。「ICさえいれば、安心安全な現場が保たれる、という考えは少し違うと思う」と語るのは、日本で数人しかいないICのひとり、西山ももこさん。かねてから様々な問題が指摘される日本の映画・映像業界での、彼女の奮闘について話を伺った。【映画ジャーナリスト/渥美志保】
(全2回の第2回)
***
【写真を見る】海外開催の国際会議で発言も…アクティブに活動する西山さん
曖昧な部分を具体化していく
ICの主な役割は、映画やドラマにおける「性描写などの親密(インティマシー)」な場面、肌の露出などが想定されそうな場面についての台本上の曖昧さを、監督と俳優の間に入って具体的な描写に落とし込み、両者のコンセンサスをとることだ。事前のそうした調整が、撮影現場の安全と安心を担保することができる。
西山さんは、その具体的な作業をこう語る。
「例えば台本に『2人がキスをする。××× 夜が明ける。」と書かれていたとして、台本上で時間経過を表す『×××』の間に何が起こっているのか。俳優側が『何も起こらずに朝になるのかな?』と思っていたら、監督側はキスの後に性的な行為を想定していたということがあるんです。
ICはまず台本を読み、そういう部分を監督にヒアリングします。『キスはどの程度のキスですか?』『この後にどういう事が起こるんですか?』『ベッドになだれ込む時は、着衣ですか?』『服を脱ぐなら、どこまで見せますか?』と動きも含めて具体化していく。その結果を俳優たちに伝え、同意の上でできること、できないことを整理し、監督に戻します。
例えば未成年の役者さんの場合は口頭では伝わりにくいので、大人がデモンストレーションをして、それを見せることもします。『撮影の最中に突然やれと言われる』ということがない安全かつ安心な現場を作るために、事前にそういうやり取りをひたすらやり、それがきちんと守られるよう撮影現場にも立ち会います」
[1/3ページ]