「男性に都合の良いシーンが多い」「いまだに前張りを使わない現場がある」現役インティマシー・コーディネーターが語る日本の映画・映像業界の現実

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 映画「先生の白い嘘」のインティマシー・コーディネーター(IC)を巡る炎上騒動は、総合ニュースサイトENCOUNTに掲載された監督のインタビュー記事がきっかけだった。同記事では、主演俳優・奈緒さんからの要望があったにもかかわらず、監督の「間に人を入れたくない」という思いから、ICが導入されなかったことが報じられている。

 もちろんその点も大きな問題だが、一連の騒動の中で透けて見えるのは、これまでも指摘されてきた映画業界、映像業界の旧態依然とした体質だ。「原稿確認の時点で、これが問題になると判断できなかったのか」と語るのは、日本で数人しかいないICのひとり、西山ももこさん。彼女が日々遭遇する様々な問題を伺った。【映画ジャーナリスト/渥美志保】

(全2回の第1回)

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認知の歪みとハラスメントの関係

 監督のインタビュー記事が問題になると原稿確認の時点で判断できなかった理由は、端的に言って「認識の甘さ」にほかならない。だが、西山さんがさらに違和感を覚えたのは、記事内で監督の口から「ICを入れなくても、ハラスメントのない現場を作れた」ということが美談のように語られている点だ。

 例えば上に立つ人から「これはセクハラではないよね」と問われた場合、下にいる人は「(心の中ではセクハラだと思いながら)大丈夫です」と言わざるを得ないこともある。上位者の「権力に対する無自覚」とはそういうもので、これは映像業界に限った話ではない。

「例えば以前、私と仲間でLGBTQに関する映画を作った時、『こういう話です』と言うと『大丈夫、俺、ゲイの友だちがいるから』と反応する年配男性が多かったんですよね。でも『友達がいる=正確な知識を持ち、きちんと理解できている』とは限らないわけです。

 そういう『認知の歪み』(自分に都合のいい理屈で物事を考えること)があると、自身がハラスメントをしていても自覚できないし、いくら話しても伝わりません。ハラスメント再発防止プログラムの先生に聞くと、そういう相手には『人格でなく行動を変えて下さい』と言うんだそうです。その人自身の考えでは行動を変えられないので、第三者から『こういうことはしないで』『こんな時はこうして』と延々と言い続けることだと」(西山ももこさん、以下同)

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