【柔道誤審】「和解のツーショット」では済まされない! 銀メダリストが語った「審判との戦い」

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コロナも影響した審判規定

 通常は絞めている手を緩めれば血流が頭へ戻り、意識が戻る。しかし、長すぎれば脳障害の後遺症や命を落とす可能性もある。審判にとって勝敗の判定以上に大事なのは、危険防止のため、絞め技にいち早く気づいて攻撃を止めることに他ならない。

 今回の審判は、「待て」コールの後も絞め続けるガリゴスの身体を叩いて止めることもしなかった。しかし、日本女子体育大学の溝口紀子教授(バルセロナ五輪女子52キロ級銀メダリスト)はこう説明する。

「現行の国際試合規定では、審判は選手に可能な限り接触してはならず、審判が選手に触れるときは、『そのまま』『よし』の動作に限られています。とりわけコロナ禍以降、審判が選手に触れることはほとんど目にしなくなりました。

 絞め技の効果の判定は『参った』の意志を示すか、落ちるかのどちらか。審判にジャッジを委ねるので、今回のように『待て』の後でも落ちてしまうと、その前から絞め技の効果があったとみなされてしまう可能性も大いにあります」

 ガリゴス選手は「待て」が聞こえなかったと言っている。

「好意的に解釈すれば、腕がパンパンになるまで相手を絞め続けるので『待て』がかかっても力が入らず、絡まった腕がなかなか外れなかったのかもしれません。一方、永山選手は審判の『待て』が聞こえても相手の手が離れるまで気を抜いてはならなかった。その後で落ちたとしても、審判は『待て』の前から半落ち状態だったとして、一本負けにされてしまいやすい。そういうケースはよくあります。永山選手には少し酷な言い方ですが、要はセルフジャッジしてしまったのが失敗でした」

永山の試合における抗議は効果があった

 さらに溝口教授はこうも打ち明けた。

「東京五輪が無観客だったので、審判団にはあれだけの大観衆に慣れていない人もいます。とくに初日は首を傾げるような判定も目立ちました。オリンピックはある意味、審判との戦い。永山選手の試合の判定に日本選手団が大会審判団にガーンと抗議したことが、次の角田夏美選手(女子48キロ級)の試合でいい風向きになったんです」

 金メダルに輝いた角田は準決勝で18歳のスウェーデン選手と延長戦になった際、審判がスウェーデン選手に3つ目の「指導」を与えたため反則勝ちした。だが、この3つ目の「指導」には疑問の声も出ていた。

 パリ五輪では、天野安喜子さん(日本)やロベルタ・キュリアさん(イタリア)といったベテラン女性審判たちが、東京五輪に続いて男子の試合も裁いている。最近の柔道は寝技の攻防が増加傾向だ。そこでの審判ぶりに注目したい。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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