「スマホ持ったらNHK受信料払え」の野望への布石か エース局員たちが次々退職の衝撃

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「増収策につなげるための布石」

 さる5月17日、国会で改正放送法が成立し、NHKの番組インターネット配信がこれまでの「任意業務」から「必須業務」に格上げされた。要は、NHKのネット配信は「必須」であるとの法的なお墨付きが与えられたのだ。これで同局は、“民業圧迫”と批判してきた民放や日本新聞協会に気兼ねすることなくネット配信を展開できる格好となったわけだが、この法改正の裏では、NHKが報道機関としての“魂”を売るに等しい「社会部斬り」が断行されていた。

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 改正放送法成立後の5月22日に行われた定例記者会見で、NHKの稲葉延雄会長はネット配信の必須業務化を「歴史的な転換点」と評し、今後は同局が「情報空間の参照点」になることを目指すと豪語した。法改正に欣喜雀躍している様子が伝わってくるが、そこまでNHKが必須業務化にこだわったのは、

「先々の増収策につなげるための布石だと思います」

 と、立教大学社会学部の砂川浩慶教授(メディア論)は解説する。

「テレビ受信料の収入は好転する兆しがありません。となると、簡単にはいきませんが『強制徴収』も含めた何らかの方法でネット受信料を払ってもらうことを考えるしかない。NHKがネット受信料の口火を切ることに必死なのは、現在の受信料制度そのものに、世間の拒否感が強くなっているからです。本来は『良質の番組を放映しているから対価を払いたい』となるのが理想で、強制ではなくあくまで“お願い”のはず。それゆえ不公平な状態が続いており、若い世代ほど拒否感を抱いているのです」

 だからこそNHKからすれば、

「ゆくゆくはスマホ所有者から一律徴収してはどうか、といった発想に至るわけですが、これも諸刃の剣です。強制にした途端、現在受信契約をしてくれている人にまで拒否感を持たれ、逃げられる恐れもある。そもそもNHK内部でも『自分たちの力で受信料を集めるから価値がある』という声も根強くあると聞きます」(同)

「社会部が重要ポストから遠ざけられている」

 それでも、背に腹は代えられず。ジリ貧から脱する活路は、ネットに求めざるを得ないというのだ。

 表向き、NHKは「スマートフォンやパソコンを所有しているだけで受信料負担を求めることはありません」(広報局)と言うのだが、ここまでの経緯を見ればうのみにするわけにはいかないだろう。

 そして、その“悲願”ともいうべき「スマホ強制徴収」に向けてひた走っているように映るNHKの内部では“異常事態”が起きていた。

 全国紙文化部デスクが説明する。

「NHKでは昨年、当時報道局社会部に所属していた30代記者が、友人や同僚と、あるいは一人で私的に飲食した代金を、取材経費として不正請求していた事案が発覚しました。この件で12月には、現職を含む3人の歴代社会部長や前報道局長など、計9人が懲戒処分を受けました。当の記者は懲戒免職、不正請求は7年間で410件、789万円に上り、すでに全額が弁済されています」

 日々の報道を支える社会部に激震が走ったのは言うまでもないのだが、

「これまでの不祥事でも、歴代の社会部長にさかのぼって処分という判断は聞いたことがありません」

 とは、NHK局内の事情に通じる関係者である。

「ちょうどネット配信の必須業務化の議論が大詰めを迎えていた時期で、この問題はまんまと局内の“政争の具”に利用されてしまいました。というのも社会部は日頃、上層部から疎ましく思われており、弱体化させるための格好の材料となってしまったのです」

 実際に、

「処分された部長の後任には、警視庁や調査報道を担当してきたゴリゴリの社会部本流ではなく、リスク管理に秀でた人物が据えられました。改正放送法を成立させるには、時の政権をいたずらに刺激する報道は慎み従順な姿勢を示さねばならず、政権にとって何かと不都合な話題を取り上げる社会部を抑え込む必要がある。そうした上層部の“判断”がはっきり見て取れます。これまで、経営陣の耳が痛くなることを口にするのは社会部上がりの人が多かったため、現在は人事など重要ポストからは遠ざけられているのです」(同)

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