「虎に翼」が扱う「朝鮮人虐殺」 今も怒号が飛び交う「タブー」に、寅子の“はて?”は切り込むか
人気ドラマで異例の言及
7月30日の放送回では、星航一が、入倉が口にした「火のないところに煙は立たず」という言葉に反応し、関東大震災について知っているかと尋ねる場面がある。
(星)「じゃあ、あの時、朝鮮人が暴動を起こした、という流言が飛び交って、大勢の罪のない朝鮮人が殺されたことは…?」
星の言葉の後で「略奪―放火―凶器―爆弾毒薬携帯」「中には婦人陵辱もある」「本所を襲った朝鮮人の一団」など当時の新聞記事が差し込まれる。
「差別が生まれる理由は様々です。火のないところに煙は立たずで終わらせるのか。それともその煙を上げたのは誰なのかを見極めるのか…」
これだけ世間の注目を集める人気ドラマの中で、たとえ短い尺であっても、関東大震災での朝鮮人虐殺を扱ったのはこれが初めてのケースではないか。筆者の記憶では21世紀に入ってからはまったく記憶がない。
今やテレビのタブーになった
先日、三選を果たした小池百合子・東京都知事が、歴代の都知事が続けてきた朝鮮人犠牲者への追悼文を送ることを2017年から取り止めていることでも、ネット上でこの問題は注目されていた。
現在、関東大震災が発生した9月1日になると、墨田区の都立横網町公園で行われてきた慰霊祭では、朝鮮人犠牲者を慰霊しようとする団体と「大虐殺はなかった」と主張する右派の団体との間で、怒号が飛び交う事態になっている。
関東大震災から100年後の節目となった2023年も、現場は緊張した雰囲気になっていた。当時、この模様を取材したTBS「報道特集」は「デマと虐殺」という特集を放送したほか、別の放送日には戦時中に日本で働かされた朝鮮人の追悼碑が群馬県で撤去された問題を取り上げていた。朝鮮人問題に強いこだわりを見せる報道姿勢だ。
しかし、この問題を真正面から取りあげたのは、100周年を迎えた2023年でも、報道番組でさえごく数えるほどだった。テレビで、この問題はタブーのように扱われている。
そうした中での「虎に翼」の今回の扱いである。関東大震災での朝鮮人虐殺を、多くの人が知っておくべき「史実」として連続ドラマの中で扱ったのだ。
寅子が「はて…?」と首を傾げ、何が正解なのかを正面から問いかける姿勢。寅子の同僚となった裁判官の星航一も「差別」の問題に関しては人には言えない苛酷な体験をしてきた人物でもあるようだ。寅子の「はて?」が、周囲の差別意識をどう解かしていくのか見ていきたい。
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