ドラマ再生「ランキング」 「VIVANT」が驚異的な数字残すも…「TVer」がメイン収入にならない理由

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CM料と比べて遥かに安い

 TVerを利用している人は今年1月時点でおよそ4人に1人。TVerのサイトに訪れる月間ユーザー数は2023年1月の約2700万から今年1月には約3500万に増えた(TVer調べ)。

 このため、「今や民放の売り上げの核はCMではなく、TVer」と見る向きもあるようだが、それは現状と懸け離れている。

 TVerの広告料はCM料と比べて遥かに安いからである。放送でCMを流すためには最低でも数百万円から数千万円が必要となる。一方でTVerの広告なら数十万円から100万円程度で出せる。

 CM料が高いのは番組の制作費を放送時の提供スポンサーが出すことが大きな理由だ。TVer側は制作費を負担しないから、広告主から高額の広告料が取れない。

 最近は「このドラマは最初からTVerを考えたキャスティングをしている」などと考える向きもあるようだが、それもない。そんなことをしたら、制作費を出す提供スポンサーへの背信行為になってしまうからだ。

 民放社員は以前から「TVerは再放送のようなもの」と説明する。再放送の番組はいくら視聴率が良くたって高額のスポンサー料を取れない。やはり制作費がかかっていないからである。

 TVerは民放の金鉱に違いないが、各局の売上高を支えているのはあくまでCM。TVerを含む各局の無料配信の広告収入はCM収入の20~40分の1程度なのである。

 以下、主要4局の2023年度のプライム帯(午後7~同11時)の個人視聴率、コア視聴率とCMの売上高、TVerなど無料配信広告の売上高である。カッコの数字は順位だ。各局は視聴率を取らないと生き残れないことが分かる。(各局の決算資料から作成、視聴率はビデオリサーチ調べ)

■日本テレビ
プライム帯  個人 5.2%(2)
〃      コア 4.3%(1)
CM売上高  約2192億円(1)
無料配信の広告売上高  約68億円(2)

■テレビ朝日
プライム帯  個人 5.3%(1)
〃      コア 2.4%(4)
CM売上高  約1668億円(2)
デジタル広告売上高  約58億円(3)

■TBS
プライム帯  個人 4.1%(3)
  〃    コア 3.0%(2)
CM売上高  約1593億円(3)
配信広告売上高  約35億円(4)

■フジテレビ
プライム帯  個人 3.5%(4)
  〃    コア 2.8%(3)
CM売上高  約1473億円(4)
配信広告売上高  約78億円(1)

 この数字を見れば分かる通り、近い将来にTVerなど無料配信広告の売上高がCMを上回るとは到底考えられない。制作費は放送時の提供スポンサーが負担するという根本的な仕組みが変わらない限り、放送とTVerの売上高の逆転は実現しない。逆転のためには、まずTVerの利用者数と利用時間が今のテレビ並みにならなくてはならない。

「VIVANT」をはじめ、ドラマ資源が豊富なTBSがTVerなどの広告売上高で劣勢なのは意外だが、同局はより利益を上げやすいU-NEXTなど有料配信のほうに力が入っているようだ。U-NEXTは同局の系列である。

 各局ともTVerで新旧700本以上の番組が観られるようにしている。しかし、取り組み方には温度差がある。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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