間男になって「初めて人の役に立った」 “不倫と再婚”で46歳夫が確立したアイデンティティと人間観

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「初めて人の役に立てた」

 卓磨さんの思いが通じたのか、彼女は「こんなの初めて」と言ってくれた。心身ともに満足させてくれた彼への感謝の気持ちだったのかもしれないが、その言葉は彼をも救った。人肌でしか回復できないお互いの傷が少し癒えた時間だったのだろうか。

「海外に旅立つ数時間前、ユカリから連絡がありました。夫と海外での生活について話しているとき、今までのことを謝罪してくれたんですって。『あなたのおかげで素直になれた』と言ってくれました。なんだかうれしかった。初めて人の役に立てた気がして」

 それでも自分は独身のままでいい。恋愛はできるかもしれないが、結婚は無理だという思いが強くなった。我慢したり修復したりを繰り返し、決定的な破壊を免れながらなんとか日常を埋めていくような暮らしはできそうになかった。

40歳のある夜、彼を待っていたのは…

 40歳になったときだった。冷たい雨の降る真冬の夜、帰宅すると部屋の前に女性が立っていた。2度目の妻の歌織さんだった。

「どうしたんだよと言うと、震えながら『10年ぶり? 9年かな。元気?』って。とにかく部屋に入れました。彼女は冷たい手をにゅっと差し出してきたので、その手を両手で握りしめました。寂しかったと言いながら、彼女は抱きついてきたんです」

 背中を優しくさすると、彼女はヒクヒクとしゃくりあげながら泣きだした。すでに30歳になっているはずなのに、まるで子どものようだった。

「ここに住んでもいい? と彼女が言うんです。どういうことなんだよ、オレからすべて奪って逃げたくせにと言ったんですが、そう言いながら思ったより彼女のことを恨んではいないなと我ながら思いました。彼女はひらひらと離婚届を見せた。なんと、彼女、離婚届を提出していなかったんです。僕もうかつだったけど、歌織は当時それなりに収入があって被扶養者にならなかったので会社には離婚したと口頭で報告しただけだった。おいおい、どういうことなんだよと笑ってしまいました」

 つまり彼は離婚したと思って9年間を過ごしてきたのだが、実際にはしていなかったのだ。ユカリさんとの一件は不倫になるのかと彼はふと思ったという。

「もう一度やり直したいと歌織は言うんです。いやもう、きみとは無理だよ、オレはもっと年とっちゃったしと言ったら、私だって年とったと。どこで何をしていたのか、歌織は何も言おうとしなかったけど、少しは苦労したようでした。一生懸命働いて貯金もあるの、だからここで暮らしていいでしょと言う歌織がなんだか不憫になってしまって……」

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