間男になって「初めて人の役に立った」 “不倫と再婚”で46歳夫が確立したアイデンティティと人間観

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【前後編の後編/前編を読む】2度の離婚はどちらも妻から…「なぜか捨てられる」 45歳“優柔不断”夫を生んだ少年時代の悲劇

 笠本卓磨さん(45歳・仮名=以下同)は、小学生の時に川で溺れかけ、彼を助けようとした兄は脳に障害を負った。この出来事で親に責められるようになった彼は、「必要とされる存在」になりたいと願うようになり、2人の女性と結婚したものの、どちらからもあっさり縁を切られている。2度目の結婚相手は10歳下の歌織さんだった。卓磨さんと似た境遇の持ち主だった彼女は、サインをして送り返すよう離婚届を残し、ある日とつぜん姿を消してしまった。

 ***

 もう結婚などしない。そもそも自分は結婚には合わないのだ。そう納得すれば「普通の家庭」をもとうとは思わないはず。それから卓磨さんは、仕事に精を出し、サウナに入ってから一杯やって帰るのが日常となった。

「学生時代の友人たちにも、また会うようになりました。30代前半だと、多くは結婚して子どもがひとりいるくらい。家を買おうか、二人目の子はどうするか。未来に希望がある話ばかり。ただ、僕は希望なんかもてなかったので、適当に合わせるしかなかった」

 あるとき、学生時代の集まりにひとりの女性の姿があった。よく話していたユカリさんだと気づくまで時間がかかった。当時、卓磨さんはユカリさんのことが好きだったのだが、もちろんそれは表明できずじまいだった。

「変わってないわねと言われたんですが、ユカリは変わっていた。ものすごくきれいになっていて……。卒業して10年たっていましたが、若い女性から大人の女性への転換期というか、少し円熟味が入ってきていい感じというか。思わず隣に座って、ふたりで飲みに行こうよと誘いました。この機会を逸したら、もう2度と会えない気がしたんです」

ユカリさんへの思いは本物…

 彼のカンは当たっていた。彼女は数日後に夫の転勤にともなって海外に行く予定になっていたのだ。場所を移してふたりきりで話しながら、卓磨さんはユカリさんのこれまでの人生を聞いた。

「結婚して子どもがふたりいて、それなりにごく普通の暮らしをしているけど、実は夫の浮気に悩まされている、と。家計に響かなければ何をしてもいいと開き直ってはみたものの、やはり寂しさは拭えない。私は家政婦で子守女なのよと言った彼女の顔が忘れられません。驚くほどきれいになったと僕が思ったのは、彼女の憂いみたいなものが暗い光を帯びて浮き上がっていたからかもしれない」

 やけに文学的な表現をする彼の言葉を聞き、ユカリさんへの思いは本物なのだろうと感じた。男はいいわよね、気軽に浮気ができてと言った彼女の目が光った。

「ユカリも気軽にしてみる? 冗談めかしてそう言ったら、『卓磨くんならいいかも』と。そのまま彼女の手首をつかんでホテルへ直行しました」

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