2度の離婚はどちらも妻から…「なぜか捨てられる」 45歳“優柔不断”夫を生んだ少年時代の悲劇

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完全に下に見られている

 生まれた子の目は青かったのだ。里緒さんは「ごめんね。でも一緒に育ててくれるよね」としれっと言ったという。

「それでもいいかなと思ったんです。里緒の子には違いないし、相手の男とは一時的な関係に過ぎないと聞いたので。でも里緒の態度がね……。僕ならどう扱ってもいいというか、完全に下に見ているのがありありとわかって、いくらなんでもバカにされてまで一緒にいる意味がわからなかった。里緒の父親には土下座しそうな勢いで謝られましたが、母親のほうは『うちの財産、全部あなたにあげるから。それでいいでしょ』と。その一言で萎えました」

 それでも、里緒さん本人の態度が変わればやり直すつもりでいたのに、離婚という言葉を試しに出してみると、「どういう状況であれ、あんたなんか、私と結婚できただけありがたいと思わなきゃいけないんじゃないの? いいわよ、離婚で」とあっさり言われた。

「この子の父親になってほしい、あなたと一緒に育てたいと言われたら違っていたんでしょうけどね。もう『いらない人』になりたくなかった。親からそう思われているのがわかったから、他人である妻には『いてほしい人』と思われたかったし、そう言ってほしかった」

 結婚して1年で離婚。家裁に申し立てて、親子関係も解除した。さすがに里緒さんも会社にいづらくなったのか退職していったと、当時の同期に聞いた。彼自身は転職先で心機一転、仕事にいそしんだ。

“家出少女”との2度目の結婚

 2度目の結婚は30歳のときだった。妻となった歌織さんはなんと20歳。繁華街で知り合った家出少女だった。

「彼女が17歳のころに知り合ったんです。繁華街で『おじさん、お金ある?』と声をかけてきて……。そのときはごはんを食べさせて説教して家に帰らせたんですが、気になってそれからも連絡をとりあっていました。会ってお茶したり食事をしたりはしたけど、恋愛関係ではなかった。その後、彼女は『やりたいことがある』と専門学校に通い始めて就職もした。20歳になったお祝いにごはんをおごってと言われたので、彼女が食べたがっていたカニ料理をごちそうしました。すると彼女、きちんと正座して『つきあってほしいの』って。年が違いすぎる、オレはバツイチだし、きみにはきみにふさわしい相手がいるはずだとまた説教しました。そうしたら彼女、生い立ちを話し始めたんですが、それが僕に酷似していて……。轢かれそうになった彼女を、お兄さんが車から守ろうとして亡くなったんだそうです。それで親との関係もおかしくなり、両親は離婚したと。ふうーっと風に吹かれるように僕たちは近づいてしまった。本当はそういうネガティブなところでわかりあえる人とは一緒にならないほうがいいんですよね。いつまでも慰め合いが続いてしまうから」

 わかっていながら一緒になった。歌織さんは専業主婦になって早く子どもがほしいと言いながら、結婚後も仕事をやめようとはしなかった。卓磨さんがまだ子どもをもつ決断がつかず、ぐずぐずしていると歌織さんは夜、帰ってこなくなった。問いただすと、転職して夜の仕事を始めたという。「カラオケスナックでバイトをしているだけ」と言っていたが、どうやらクラブで本格的にホステス修業をしているようだった。

「それでもいいけど、一緒にいる意味がないよねと歌織に言うと、そうだね、と。結婚して1年ほどたったある日、家に帰ったらもぬけの殻でした。離婚届と部屋の鍵だけがテーブルの上にあった。サインして送り返してほしいと。彼女のために新築のマンションを借り、彼女のために家電製品も新しくした。それなのにテレビや洗濯機までもって行かれたのは痛かった。冷蔵庫なんて中身ごと持ち去られました」

 彼自身が、家庭へのビジョンがまったくないから、女性に押されて結婚してしまう。そして女性に翻弄されたあげく縁を切られることになったのだろう。

「話してみると、自分でも情けない」

 そう言った彼の顔は、だがどこかいい人風で憎めないのがおもしろい。

 ***

 2度の離縁によって心に傷を負った卓磨さんだったが、その後、【後編】で紹介される出来事によって、彼の中に独自の“人間観”が育まれていった……。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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