WBCチームドクターが指南する体幹トレーニング 「肋骨部が硬い人のチェック方法」「ケガした場合はこう歩け」

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「目覚めたとき」も盲点

 イスに座って背後のものを取る場合、まず股関節が回旋し、次に胸椎が動き、胸部の筋肉も反応する。その後で肩甲骨が動いて腕が背後に振られる、という運動のリレーが行われる。

 それらの段階を一つひとつ確認するイメージで、無理のない動きを心がけることが大事だと説く。

「この一連の動作の中で最も自由度が高いのは肩なんです。いろんな方向に動くので“便利”なのですが、骨と骨が適度にはまっている股関節などと比べると、肩は非常にはまりが浅いです。だから脱臼が起きやすい」(石井氏)

 肩に備わる広い可動域は、人間が二足歩行に進化する過程で脱臼しやすいリスクと引き替えに獲得した利便性だ、とは米川医師の解説である。

「ただし解剖学的に言いますと、人間は視野に入らないものを取れるようには進化してきていません。だから背後のものに手を伸ばす際は注意してください」

 夜中にトイレに起きるときや、朝、目覚めて起き上がるとき。これもケガをしやすい瞬間で、意外に盲点になっているという。

「高齢者には、寝起きに腰の痛みを感じると訴えられる方が珍しくありません。睡眠後の、長時間じっとした状態から体を動かす場合、出力を一気に上げなければならず、高齢になるとそれが難しくなる。出力が十分上がりきらないうちに動いてしまうと、体に負荷がかかってしまいます。夜中や朝方に起きる際は、すぐに急いで立ったりせず、しばらく布団やベッドの上で体を動かしたり、ストレッチ運動などをしてから起き上がったほうがいいでしょう」(同)

年齢を重ねてからでも効果が

 最後に、どちらかの脚をケガした場合の歩き方について聞いた。家の中や外出先で階段を使わざるを得ないとき、どう歩けばいいのだろうか。石井氏が言う。

「基本的なルールとしては、階段を上るときは痛くないほうの脚から上がり、その足で踏ん張って、痛む側の脚を上げてそろえます。逆に下りるときは、痛む側の脚から下ろします。そのほうが負担は少ないからです」

 体幹や柔軟性、指先の力などについて、それぞれ機能を高める方法などを紹介してきたが、年齢を重ねてからでも効果はあるとか。

「普段あまり使っていない筋肉は、筋肉自体が“少しサボっている”ような状況だと考えてあげればいいでしょう。動かしてやることで刺激を与え、機能を復活させることは不可能ではありません」(米川医師)

 古来、ヘソから指3本ほど下の「臍下丹田(せいかたんでん)」に力を入れると健康と勇気が得られる、などと言われてきた。

 今回、そのすぐ近くの腹横筋付近に意識を置くことで体幹を安定させることを学んだ。歩くエクササイズといえば「歩数」を考えることが多い。だがこれからは、ヘソと骨盤の真ん中あたりを意識し、姿勢や重心、バランスを念頭に置いて息災に過ごしたい。

米川正悟(よねかわしょうご)
「東京城南整形外科」院長。1981年、東京都生まれ。順天堂大学医学部卒業。2023年WBCに日本代表チームドクターとして同行。24年5月、東京・目黒区自由が丘に「東京城南整形外科」を開業した。

石井 斉(いしいひとし)
理学療法士。1975年、東京都生まれ。都立小山台高校では野球班に所属。「日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー」として多くのアスリートに関わる。

西所正道(にしどころまさみち)
ノンフィクション・ライター。1961年奈良県生まれ。京都外国語大学卒業。著書に『東京五輪の残像』『「上海東亜同文書院」風雲録』『絵描き 中島潔 地獄絵1000日』など。

2024年7月25日号掲載

特別読物「『大谷翔平』『山本由伸』に同行 『WBCチームドクター』が誌上指南 『膝がツラい』『ふくらはぎも痛い』『足がつる』は自力で治せる」より

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