【警察不祥事もみ消しの実態】「覚せい剤の検査結果が科捜研で逆転」 産経新聞元記者が今でも悔いていること
警察とNHKの「共犯関係」
警視庁担当をしていた1998年ごろ、不思議な話を聞いた。
「渋谷区の中学校で覚せい剤が入った注射器が見つかったらしいぞ。ところが、発見されてから1カ月以上経つのに、未だに覚せい剤かどうか、断定できないっていうんだ」
ある刑事がこう教えてくれた。取材を進めると、その中学校ではその日、体育祭が行われていたらしい。おそらくは体育祭を見学に来た父兄が置いていったものではないか、という。シモン試薬(Xチェッカーとも)を垂らしたところ、青く変色したという。薬物担当の刑事の間では「ブルー試薬」ともいわれるもので、覚せい剤であれば、瞬時に青く変色する。
ところが、なぜか警視庁は注射器を警視庁本部の科学捜査研究所に持ち込んだ。そして、それから1カ月が経っても何の音沙汰もないというのだ。
僕はこれらの事実を取材して記事にした。
ところが、その後、何とも面妖な事態が起こった。産経新聞に僕の記事が出た当日、科学捜査研究所は「検査の結果、陰性だった」と結論付けて、警視庁担当記者を集めて公表したのだ。
NHKの記者などは、
「ていうことは、産経の誤報ってことですね。誤報で良いんですね」
とご丁寧に何度も「誤報」「誤報」と繰り返し、半分はホッとしたような、半分は勝ち誇ったような顔をした。
自分たちが報じられなかったことを産経に「抜かれた」ことになるとまずい。しかし、誤報であれば問題ない。そんな計算が透けて見えた。
あまりに悔しかったので、当時の科学捜査研究所長Aさんに「こんなバカな話はない。これでは隠蔽じゃないか」と食い下がったところ、A所長は「陰性なんだから仕方がないだろう。お前は科学捜査に因縁をつけるのか」と僕を怒鳴りつけた。
ネタ元に口惜しさをぶつけたところ、「まあ、そういうことで幕を引いてしまったんだから、仕方ないよね」とその人は言った。
さらに追及すれば良かった
あの時は若さ故か、「誤報」と言われて黙り込んでしまった。だが、今にして思えば、こんな理不尽な話はない。ブルー試薬で「陽性」反応が出た注射器が、正式な鑑定で「陰性」になったのであれば、全国であまた摘発されているであろう薬物関係者の現行犯逮捕などできなくなってしまうからだ。
なぜなら、職務質問などで覚せい剤のようなものを発見した警察官は、配布されたシモン試薬をコンタクトレンズのケースのようなものに入れて、色の変色を職務質問の相手の前で見せる。
「色が変わったね。覚せい剤所持の現行犯で逮捕するから」というシーンは「警察24時」などの警察官の職務を追うテレビ番組などで目にしたことがある方もいるのではないだろうか。
ところが、試薬が「陽性」、本鑑定で「陰性」 などという事態が起きたら、こうした職務質問で行われるシモン試薬の信用性がなくなってしまい、覚せい剤所持の現行犯逮捕など、不可能になってしまう。
と、上記のような趣旨で、さらに報道を続け、問題提起すればよかった、と今でも実は後悔している。だが、「科捜研の鑑定の結果、陰性」という結果に驚愕して、意地悪なNHK記者に「誤報、誤報」と言い募られて、冷静さを失ってしまった。
[2/3ページ]