旧ジャニ勢、今年の「紅白出場」も困難な理由 不透明な「カネ」の流れとNHK元理事の“天下り”問題
理事会がどう判断するか
大晦日の「NHK紅白歌合戦」の出場歌手の選考が始まった。注目は旧ジャニーズ事務所勢(今年4月にスタートエンターテインメントに移籍)の行方。昨年はNHK全体が旧同事務所勢の新規起用を取りやめていたため、出場はなかった。起用見合わせは今も続く。同局が判断を変える動きが見られないことから、今年も現時点では出場は難しい。
【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
「紅白」に出場する歌手40数組の多くが固まるのは9月中。出場依頼や打診が集中的に行われるのは10月。11月中旬には出場者が正式発表される。
スタート社勢が出場するためには、まずNHKの最高意志決定機関である理事会(民間企業の役員会)が同社勢の起用見合わせを解除しなくてはならない。
遅くとも9月中までにスタート社勢の新規出演が認められないと、「紅白」への出場は難しい。ほかの出場歌手の大半が決まった後、スタート社勢を割り込ませるのは困難だからだ。理事会の決定を待たずに「紅白」の現場スタッフが同社勢の出場を決めるわけにはいかない。
だが、理事会の考え方に変化をもたらすだけの大きな動きはスタート社とスマイルアップ社(旧ジャニーズ事務所)に見られない。このため、レコード会社や芸能プロダクションのスタッフの間では「今年もスタート社の出場はないのではないか」という見方が広まりつつある。
NHKの稲葉延雄会長(73)は6月19日の定例会見でスタート社のタレントの起用方針について、こう語った。
「スマイルアップとスタートエンターテインメントの両社に対しては、定期的にやりとりを行っています。被害者への補償と再発防止の取り組みは一定の進展があると認識していますが、引き続き2社の取り組み状況、特に旧ジャニーズ事務所と新しい会社の間の経営の分離や、子会社との関係等々についてきちんと行われているかどうかは重要な論点だと思っていますので、その辺りを確認しながら、今やりとりをしているという状況です」
被害者への補償については7月16日時点で、補償受付窓口への申告者数が1001人。そのうち補償内容の合意者数が484人。その中の466人に補償金が支払われた(スマイルアップ社発表)。これをどう評価するかである。
経営分離と子会社問題がカギ
スマイルアップ社とスタート社の経営分離は資本面では実現した。資本金の1000万円はスタート社の福田淳代表取締役CEO(59)や同社取締役たちが持ち寄ったとされており、スマイルアップ社代表取締役の藤島ジュリー景子氏(58)は資金提供していない。
ただし、不透明な部分は残されている。福田氏は数億円単位と見込まれる会社の運転資金について、昨年12月に一部マスコミの取材に対し、「銀行から借り入れる」と説明したが、債務保証をどこがしているのか分からないためだ。
万一、債務保証をスマイルアップ社、あるいはジュリー氏個人がしている場合、経営が分離されているとは言いがたくなる。債務保証の主は資金を出していなくてもスタート社に強い影響力が持てるからだ。
スマイルアップ社の子会社については「現在もジュリー氏が株の多くを所有したまま」(レコード会社幹部)。旧ジャニーズ事務所勢の楽曲の原盤権を管理するブライト・ノート・ミュージック社(旧ジャニーズ出版)などの株である。
子会社問題を早期に解決するのは難しい。仮にジュリー氏やスマイルアップ社がスタート社にブライト社などの株を譲渡すると、スタート社は途方もない金額の贈与税を支払わなければならなくなる。設立から4カ月足らずで運転資金を銀行から借り入れている状態の同社が負担するのは至難に違いない。
スタート社勢のファンクラブ(ファミリークラブ)を今もスマイルアップ社が運営しているのも経営の分離という観点において不自然だが、これも最大の障壁は税金。ファンクラブという事業の譲渡にも莫大な法人税などが生じ、それをスタート社が負担しなくてはならなくなるからだ。
ファンクラブについてはスマイルアップが4月中旬、分社化すると声明した。その時期については夏をメドにとしていたが、まだ実現していない。NHKとしては気になるところだろう。日本最大の芸能プロダクションだったので、会社の整理や縮小は簡単ではないが、長期化するほどスタート社勢のタレントたちにはマイナスとなる。
昨年3月に故・ジャニー喜多川氏による性加害問題を伝えたのは英国の公共放送・BBCだった。公益性を重視した報道を行い続けている。NHKがスタート社勢の起用に慎重なのも公共放送だから。受信料で運営されているので、視聴者の信頼を損ねるわけにはいかない。
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