実は誰にも期待されていなかった「モハメド・アリ」 “ほら吹き”と呼ばれた男が「伝説のボクサー」になったワケ(小林信也)
1996年アトランタ五輪開会式。聖火最終点火者として登場したのは、ボクシング元世界ヘビー級王者モハメド・アリだった。
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アリがパーキンソン病のため震える手足を懸命に制御し、厳しい表情で導火線に火をつけた。スタジアムは異様な興奮に包まれた。何も語らないアリが世界中に深いメッセージを伝えた。
若い頃アリは、「ほら吹きクレイ」と呼ばれた。当初はカシアス・クレイの名で活躍した。当時の評価は、本人が思うよりずっと低かった。自分の天性や潜在能力を認めない世間に彼は激しくいら立っていた。
18歳でローマ五輪ライトヘビー級の金メダルを獲得。プロ転向後は連戦連勝。だが、世界王者への挑戦はなかなか実現しなかった。
「クレイではリストンに勝てない」と多くの関係者、ファンが考えていた。
時の世界ヘビー級王者ソニー・リストンは、それまでの最強王者フロイド・パターソンを2試合連続1ラウンドでKOし、ボクシング界を震撼させていた。規格外れの破壊力。リストンは世間が待望していた典型的なヘビー級王者だった。身長こそ185センチだが、極端に長い213センチのリーチから繰り出すパンチ力は対戦相手に死をも意識させた。
一方クレイは、華麗なフットワークを駆使するスマートなボクシング。そんな軽さではリストンの足元にも及ばない、と誰もが感じた。
しかもリストンには、周囲に恐怖を抱かせる法外な生き様があった。アーカンソー州の極貧家庭に生まれ、幼い頃から犯罪の常習者。強盗や警官襲撃などの逮捕歴が15回とも19回ともいわれる。教育を受けていないため、読み書きができない。自分のサインさえ書けない。話もうまくないからあまり喋らない。リストンは、どう猛な破壊者そのものだった。
懲役5年の刑で服役中にボクシングを覚え、出所後にアマチュア王者を経て、プロ入りした。そんなリストンの後ろ盾になってくれるのはマフィア以外にいなかった。そのため対戦相手から敬遠され、王座挑戦に時間がかかった。ようやく念願かなってパターソンに挑戦し、頂点に到達した。
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