“上映時間58分”のアニメ映画「ルックバック」が異例の大ヒット 日本人の心に刺さった「時代性」というキーワードと専門家が指摘する「作品のもつ新しさと普遍性」

エンタメ 映画

  • ブックマーク

作品が秘める「時代性」

 実際、ある映画プロデューサーはこんな感想を口にする。

「58分の映画など、フツーなら“非常識だ”や“採算が取れない”として通らないような前代未聞の企画です。ところが今回、ルックバックが当たったことで『短い映画は観客の回転率がいい』などプラスの面に注目が集まり、映画という興行ビジネスのあり方すら問い直している」

 ちなみに原作漫画の冒頭と末尾には〈Don’t〉と〈In Anger〉の文字がひっそりと描かれ、繋げるとイギリスのロックバンドOasisが1995年に発表したヒット曲のタイトル「Don’t Look Back In Anger(ツラい思い出にしないで)」になる仕掛けが施されている。

「映画で描かれる創作者が持つ孤独や苦悩、覚悟に共感したためか、当初は漫画やアニメ業界、クリエイター関係の人が多く鑑賞に訪れたと聞きます。しかし、いまやそういったクリエイター職に分類されない一般の人たちも大勢足を運んでいるという。周囲に話を聞くと、たとえ普通のサラリーマンであっても日々の仕事のなかには本人にしか分からないクリエイティブな面があり、だからこそ多くの人の心に刺さっているのではないかとの声を耳にしました。19年の京都アニメーションの放火事件がモチーフにあるとされますが、程度の差こそあれ、理不尽な現実に直面しつつも目の前の日常と格闘せざるを得ない――そんな経験を持つ人が少なくないことを示しているのかもしれません」(同)

 イマという「時代性」も秘めた作品なのだという。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。