「高級腕時計」を扱う店から“接客のプロ”が消えた深刻な理由…「いまの店員は自動販売機」との声も

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店員の知識が悲惨すぎる

 筆者はかつてそれなりに腕時計に興味があり、30代前半の頃、買い漁っていた時期があったが、現在はとんと関心がなくなってしまった。だが、先日、ひょんなことであるブランドのブティックを訪れる機会があった。スーツをビシッと着こなした店員が接客してくれたが、時計の型番やブランドの歴史など、いろいろとよく間違うので驚いた。

 そのとき、筆者はパテックフィリップの腕時計を身に着けていたが、「IWCのお時計ですよね、素敵ですね」と言われてしまった。興味がなくなった筆者の方が、まだ店員より詳しいんじゃないか……と思ってしまう出来事であった。

 腕時計が好きな人であれば思い当たる節があるかもしれないが、昨今の時計店の店員はかなり知識面で頼りないものがある。ブティックの店員は自社のモデルしか知らず、他のブランドのこととなるとまるでわからないのは普通のことだ。

 それでも自社のブランドの知識をマスターしていれば問題ないのかもしれないが、それでさえ、製品名や型番まで盛大に間違える。ちょっとした質問でも、タブレットを使って調べ始める。腕時計に興味があった時代はよく時計店に足を延ばしていたが、そういう店員に遭遇したことは一度や二度ではない。

ベテランを切り捨てた時計メーカー

 XなどのSNSでも、だいぶ前から店員の知識の乏しさや対応の酷さは話題になっていた。高級品を売っているはずの店で、なぜ、このような事態が起きているのか。筆者はその理由のひとつとして、2000年代から海外ブランドが中心となり、販売戦略の一環として、長年にわたって腕時計を扱ってきた老舗時計店、特に地方にあった時計店との取引を軒並み中止してしまったことが原因と考える。

 これはすなわち、長年販売に従事してきたベテラン店員の知識を切り捨てることに繋がった。ブランド側としては、人気があるし、マニュアルもあるから、ベテラン店員がいなくなっても、新人を採用すれば対応できると考えたのかもしれない。しかし、現実はそう上手くいっていないようだ。新たにオープンする路面店は店内こそそれなりに高級感があるが、店員の知識と教育が追いついていないと感じる。

 腕時計好きにも様々なタイプがいる。いくらでもお金があり、いくらでも買うことができる人は、接客など気にしなくてもいいかもしれない。例えば、筆者の知り合いの医師は、「接客なんてどうでもいいから、ほしい腕時計が出てくればそれでいい」と割り切り、「店員なんて辞めるから、まったく期待していない」と話す。

 その一方で、大半の人にとっては高級腕時計など一生に一本買うような品物ではないか。そういった人にとっては、心もとない接客で大丈夫なのだろうかと心配してしまう。

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