「貧乏な患者からはお金を受け取らなかった」「信号無視を命じられて捕まることも」 徳洲会病院・徳田虎雄の功と罪【追悼】

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「信号無視を命じられ捕まることも」

 私生活では秀子夫人(86)とのあいだに2男5女をもうける一方、徳之島名物の闘牛のごとく、組織拡大の道を猛進。「年中無休、24時間オープン」を謳い文句に徳洲会を急成長させ、日本最大の民間医療グループへと育て上げた。その原動力は徳田氏の狂気にも似た、医療にかける情熱だった。

「理事長は時間を無駄にすることを嫌いました。立ち食いソバなんかを好んで、よく食べていましたかね。自分も含めて、お付きの人間が車を運転していても“青は気にせず渡れ、黄色は急いで渡れ、赤は左右を見て渡れ”。いずれも行かなくてはいけない。信号無視を命じられて、警察に捕まってしまい、点数を引かれるなんてしょっちゅうでした」(能宗氏)

 今ならパワハラ、コンプラ違反で一発アウトの事案だ。だが、徳田氏はそんなことは意に介さなかった。

「“俺の一分一秒を大切にしろ。俺の一分一秒は、患者さんの一分一秒だから”とこんな調子ですから」(同)

住民1人につき1万円のワイロ

 しかし徳洲会は全国展開を性急に行った結果、各地の医師会と衝突を繰り返すようになる。

 業を煮やした徳田氏は、旧態依然とした医療制度の改革を目指して83年、地元・徳之島を含む奄美群島選挙区に無所属で出馬。以来、対立候補である自民党の故・保岡興治(やすおかおきはる)元法務大臣と、血で血を洗う「保徳(やすとく)戦争」を繰り広げて行く。

 徳洲会の事情に詳しいさる関係者が言う。

「徳田理事長の陣営の中には選挙戦で身の危険を感じたのか、護身用の拳銃を持ち歩く者もいたのですが、実際には実弾ならぬ現金が飛び交う現場でした。奄美群島は産業に乏しく、経済的には豊かではない。住民は自分たちに何をしてくれるのかと要求してくる。飲み食いの接待なんて当たり前。あの地域では、選挙ブローカーから投票券1000枚いくらで買収を持ち掛けられることもありました」

 1回目の選挙は人件費を含めて、7億~8億円を費やしたという。

「理事長はそれで十分だと考えたようですが、結果は落選。そこで、2回目は額を増やして20億円ほどばらまいた。投票と引き換えに、住民1人につき1万円渡すんです。ですが、相手方はそれ以上の額を用意したようで、その選挙も負けてしまった。相手方が30億円を用意したという話が流れた3回目、徳田陣営でも同額を用意して選挙に臨んだのです」(同)

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