ガンジス川の汚染度は許容水準の12倍、6億人が水不足に直面、洪水…インド経済の未来は「水」の問題に左右される

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若年労働力を「武器」にできない

 過去10年間でインドの国内総生産(GDP)は2倍になったが、2022年度(2022年4月~2023年3月)の失業率は5.4%と、モディ政権発足前(2013年度)の4.9%から上昇した。民間シンクタンクによれば、足元の失業率は8%にまで上昇しているという。

 世界銀行は4月上旬に発表した報告書で、インドでは雇用創出が生産年齢人口の増加に追いついていないため、「人口ボーナス(全人口に占める生産年齢人口の比率が上昇することで経済成長が促される現象)」を無駄にする恐れがあると指摘した。

 昨年の人口が中国を抜いたことでインド経済に対する注目度が高まっているが、豊富な若年労働力を経済成長の「武器」にすることができていないのが現状だ。雇用市場の改革は喫緊の課題だが、求心力が低下したモディ政権にとっては荷が重すぎるのではないかと思えてならない。

 インフラの脆弱性も頭の痛い問題だ。今年6月は完成寸前の橋が洪水で崩落したり、貨物列車が停車中の急行列車に衝突したりする事案が相次いだ。背景には政府のインフラ対策の不備があると言われている。

 中でも深刻なのは「水」に関するインフラの未整備だ。有数のビジネス都市であるベンガルール(バンガロール)では今年3月に水不足が深刻化し、企業活動全般が支障をきたす事態となった。

ガンジス川の汚染度は許容水準の12倍

 インドでは大量の水を必要とする半導体製造企業の誘致が進んでおり、水不足の問題が経済全体の足かせとなるのは時間の問題なのかもしれない。

 米格付け企業ムーディーズは6月25日、「急速な経済成長と頻発する自然災害で水不足が深刻化しており、インドの格付けに悪影響を及ぼす可能性がある」と警告を発している。

 水質汚染も目を覆うばかりの状況だ。

 モディ氏は議員に選出された際に「ガンジス川の浄化」を公約に掲げたが、現在も汚染度は許容水準の12倍のままだ(5月28日付日本経済新聞)。下水や産業廃水を適正に処理する施設が圧倒的に不足しているからだ。

 さらに、2019年時点で約6億人の国民が深刻な水不足に直面している。このため、最近「大規模な河川連結計画を推進すべきだ」との声が高まっている(7月10日付クーリエ・ジャポン)。

 国の一部で深刻な水不足が起きている一方、別の地域で洪水が多発している現状を踏まえ、国内の30河川を連結して全体のアンバランスを解消しようという発想だ。だが、最近の海外の研究によれば、水の流れを大幅に変えることは自然の理に干渉することになり、水不足の問題をさらに助長する恐れがあるという。

「たかが水、されど水」。政府が水不足の問題に正面から向き合わない限り、インドの輝かしい未来は幻に終わってしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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