コロナ禍で市場規模が1000億円まで…拡大した日本の「アート投資」の意外な可能性とは

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コロナ禍に日本のアートマーケットは伸長

 ここでいう「アート投資」の対象は、主に現代アート作品である。

 歴史を経てきた古い絵画や彫刻などは、価値が確定しているものが多く、値動きが少ない。そもそも名品はそうたやすく売買の場に出回らないし、一般人には手の届かない、とんでもない高額だったりする。

 数万円や数十万円から売買できて、資産価値の上昇が大きく見込めるのは、現代アート作品ということになるのだ。

 では、日本の現代アートの市場はどれほどの規模で、盛り上がりを見せているのかどうか。実態を徳光氏に聞こう。

「メディアやネット等で“日本のアート市場は約3000億円”などと言われ、さまざまな数字が飛び交っていますが、実際には1000億円に届かない、800億円から900億円程度というのが、現在の日本のアート市場規模となります。これは世界全体のアートマーケットの1%に満たない可能性もあります」

 日本のGDPは現在、世界全体の約4%と目される。すると、日本のアートマーケットは、国の経済力のわりにかなり小さいことがわかる。前向きに捉えるなら、今後まだまだ伸びる余地があるとも言えるだろう。

「確かにコロナ禍の時期を通して、日本のアートマーケットは膨らみました。コロナ禍前に比べると、30%近い成長率があったと考えられます。当時は世の中全体が停滞し、ゴルフにも行けない、飲み会にも行けないという状況が続き、外出を伴うエンターテインメントなどにはお金が回らなくなりました。行き場をなくした資金が、インドアで楽しめるアートに流入しました。そのため、それまで700億円くらいだった日本のマーケットが1000億円くらいにまで伸びたと考えています」

注目されたアーティストは

 きっかけはどうあれ、アートを購入してみようとの気運が広がったのは確かだ。

 コロナ禍に人気を集めたアートには、ひとつの傾向があったという。コンセプチュアルなアートではなく、明快な絵柄で、漫画やイラストとの近しさを感じさせる「わかりやすい」絵画作品だ。

 具体的なアーティスト名を挙げれば、福岡を拠点に女性を描いた作品で知られる「KYNE」や同じく女性を描き、予備校・河合塾の広告ビジュアルも担当した「Backside works.」らが大いに注目を浴びることとなった。見ればたしかに、わかりやすくて洒落た雰囲気の作風である。壁に掛けて部屋を彩りたくなる気持ちも理解できる。

「『KYNE』や『Backside works.』の購買層もそうですが、コロナ禍には、作品購入者の年齢 が若年層に広がりました。20~30代がアートを買うようになったのは、アートマーケットの先行きにプラスの効果をもたらしています」

 人は年齢とともに考えや嗜好がどうしても保守的になりがちだ。高齢化社会に突入し人口ボリュームの大きい高齢者を狙うのもいいが、新しい発想が尊ばれる時に「わかりにくい」とも言われる現代アートのほうへ、すべての高齢者を振り向かせるのは至難の業。投資という意味では若年層が参入してきた方が、現代アートマーケットとの相性がいいのである。

 コロナ禍に巻き起こった「プチ現代アートバブル」は、社会が平常化していくとともに収まっていった。とはいえコロナ禍前に比べればマーケットは広がり、若年層を中心に、新たな購買層を得たのは大きな収穫となった。また、昨今の円安で割安な日本の作品を買い求める海外コレクターが増えることで、日本のアートマーケットが伸びる可能性もあると徳光氏は指摘する。

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