「テレビの真実」をさらけ出した良作ドラマ6選 局内部のよどみをまるっと描いた「エルピス」に、芸能界のタブーに斬り込んだ「共演NG」

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 連載700回に到達。この14年で周囲のテレビ離れが激しく進んだ。家にテレビがない友人も増え、ドラマの話もほぼ通じなくなった。「観るものがない」と老いた母も舌打ち。中高年も老人も観なくなりつつあるテレビ。中の人に危機感はあるのかな。ただ、ドラマ制作陣の一部には問題意識の高い人がいる。ここ数年の「ドラマが描いたテレビの真実」を振り返ってみる。

 テレビ局内部のよどみを余すところなくまるっとさらけ出したのは「エルピス」(カンテレ・2022年)だ。報道部の傲慢(ごうまん)、バラエティーの諦観、調査報道で真実を伝えることの難しさを描き、長澤まさみがキャスターの苦悩を好演。東日本大震災後の原発は復興どころか課題山積みなのに、時の首相が五輪招致のために世界に向けて大うそこいた映像を差し込み、「自分があたかも真実のように伝えたことの中に本当の真実がどれほどあったのかと思うと苦しくて苦しくて息が詰まりそうになります」と語った長澤。歴史に残る名場面だ。

 テレビ局には疑問や恐怖を感じた人はいないのか、良心の呵責(かしゃく)はないのかと思っていたので、ちょっと安心した。カンテレには権力の監視を続けてほしい。うそしかつかない知事や恫喝が得意な元市長を偏重する報道、芸能界の性加害問題なども鋭意、ドラマ化してほしい。

 テレビ局の本音と容赦のない批判をぶちこんだのは「新しい王様」(TBS×Paravi・2019年)だった。主人公は実業家(藤原竜也)で、テレビの惰性と悪習と傲慢を指摘。藤原のセリフ「いつか誰も観なくなる日が来るよ」は、まさにテレビの現在地だ。「(自社のスキャンダルは)早朝のニュースで25秒くらいやってお茶濁しとけ」という報道局長(相島一之)のセリフも、あまりにリアルで失笑。鋭い批判に満ちた作品で、テレビ局にも良心と自浄能力があると一瞬思わせてくれた。結局はドラマの中だけの話で、大手事務所の言いなりは相変わらずだけどな。

 フィクションのフリして、毒と呪詛を詰め込んでいたのは「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」(テレ東・2021年)。テレビ局への揶揄を手練れの俳優たちが漏らす・愚痴る様が実におかしかった。西村まさ彦がねちねち語った「5チャン企画パクリ癖」、本宮泰風が吐いた「大河と朝ドラは俳優を長期拘束、民放が嫌がる」は私も風のうわさに聞いたことがある。ドラマの中にひとさじの真実が。

 Web、新聞・雑誌・テレビの新旧メディアを比較したのは「和田家の男たち」(テレ朝・2021年)。週刊誌編集長(堀内敬子)の矜持(きょうじ)とテレビ局プロデューサー(佐々木蔵之介)の本音に見えたのは「テレビの敗北」。

「共演NG」(テレ東・2020年)では芸能界のタブーに斬り込んだ。ドラマ制作スタッフの嘆き節が満タン。今年の「不適切にもほどがある!」(TBS)でも、テレビ局の惰性と思考停止をしれっと描いていたっけ。

 昭和・平成のドラマでは、テレビ=憧れの華やかな業界として描かれたが、令和は……。逆にここまで落ちれば、後は上がるのみ、だ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年7月25日号掲載

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