すべては“母の浮気”のせいなのか… 父が命を絶って一家離散、40歳男性が救いを見出した「夜の出会い」

  • ブックマーク

【前後編の前編/後編を読む】妻の連れ子に迫られて、妻の妹と不倫して… 40歳夫の“自己満足”が招いた「人生2度目」の悲劇

 人間関係が複雑になるにつれ、今まで想像もしなかったようなできごとが起こる可能性が出てくる。初恋の人と結婚して一生、どちらも浮気などしなければ、夫婦関係はとてもシンプルだ。だが、そうはいかないのが人の常でもある。

「生まれ育った家庭も、結婚した家庭も崩壊してバラバラになってしまった。僕自身は、あまり物事を難しく考えないようにしながら生きてきたんですが、それがネックだったのかもしれません。ただ、煩雑な人間関係の渦中には入りたくなかった。その僕の気弱さが一連のできごとを招いたんでしょうか」

 戸村周一さん(40歳・仮名=以下同)はそう言ったが、言葉とは裏腹に「自分は巻き込まれた被害者だ」と言いたげだった。確かに彼は被害者でもある。

消えた「父の日記」

 周一さんは大手企業に勤める父、専業主婦の母の間の長男として産まれた。3歳違いの双子の妹がいる。近所に住む父方の母がときどき来て手伝っていたようだ。母と祖母の間に特に諍いがあった記憶はない。

「ごく普通の家族だったと思います。父はそこそこ出世していたようですが、それをひけらかすこともなく、母を顎で使うようなこともなかった。母がごはんをよそうと『お、ありがとう』と大きな声で言う。母も、どういたしましてと言っていました。お互いに思いやりをもって接していたように見えましたね」

 ところが彼が大学2年生のとき、父は自ら命を絶った。うつ病で入院し、そろそろ退院が見えてきたころだった。有名企業で出世もしていた父に何があったのか、周一さんはほとんど知らない。

「父が日記を書いていたのは知っていました。日記帳を鍵のかかる引き出しに入れていたことも。父が亡くなったあと、それを見ようとしたのですが、すでに引き出しは空になっていた。母に聞くと『知らない』と。おそらく母が捨てたんだと思います」

 そこから彼はあるストーリーを導き出した。母が浮気をしていたのではないか、父はそれを苦にして自らの生に幕を引いたのではないか、と。四十九日を前に、彼は母を問いただそうとした。だが母はその気配を感じとったのか、あるいは夫の死で心身を病んだのか、入院してしまった。

「これで母まで失うのは耐えられないと思いました。だからもう何も聞くまいと。母は人のそういう心のひだを読み取るのに敏感な人なんですよ。四十九日の法要を延期し、1週間ほどの入院から戻ってくると、ちゃんと法要をすませて納骨もして……。親戚からは『奥さんも大変だったね』と同情を集めていました」

「あなたたち好きに生きて」

 母への疑惑は広がる一方だったが、そこに拘泥するつもりはなかった。周一さんは大学生活に戻り、双子の妹も自分たちの生活を充実させようとがんばっていた。妹たちのためにも父の遺産のことだけははっきりさせておかなければと、彼は父方の叔父を頼って資産を確認した。学費はなんとかなりそうだったが、今後、母が一生暮らせるだけのお金はない。当時、母はまだ40代だった。何でもいいから仕事をしてと言ったのだが、「今さら働けない」と言うばかり。「そのうち私の親の遺産が入るから、なんとかなるわよ」と言ってのけた。

「母は結局、自分で働いてお金を手にしたことがないんですよね。でも実家だって、ものすごく裕福なわけでもなさそうだし、親の介護に手間もお金もかかる可能性がある。そんなことも考えない。母と話し合っても無駄だったので、銀行などと相談して遺産を整理しました」

 大学を中退しようかとも思ったが、父からちゃんと卒業してほしいと言われていたから、そこは踏ん張った。妹たちにも「進学をためらわないようにと伝えた」そうだ。

 留学や院への進学なども希望していたが、それは考えられなくなった。「長男として、せめて妹たちを成人させなければ」と思い、就職した。

「僕は就職し、妹のひとりは大学へ、もうひとりは専門学校へそれぞれ進学しました。僕は会社の借り上げ住宅に越してひとり暮らしを始めたんです。ひとりになって、家から解放されたかった。それからしばらくたったころ、母が突然、『再婚するから、あなたたち好きに生きて』と言いだした。それで家を売ってお金を分けて、家族はバラバラになりました」

次ページ:心の癒しを「酒」に求めて…

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。