「いまどき電話を使うのはバカ」という人が見落としている“最大のメリット” ビジネスの場でも“電話が有効”と言える理由

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「考える時間」が発生

 これってまどろっこしくないですか? このやり取りには恐らく5分はかかっているはず。これがもし電話だったら以下のようなスピード感で一気に決められる。

「先方の田中部長ですが、どんなものがお好きですかね?」
「この前、豚しゃぶ屋に行ったら気に入ってましたよ。肉が好きなんじゃないですか?」
「肉って色々あるけど、どんなのがいいんですかね?」
「まぁ、無難なのは同じ豚しゃぶ屋ですが、同じ店に行くのもなんなんで、豚トロもある焼肉屋はいかがですか? 私、行きつけの店がありますんで」
「あぁ、じゃあそこを予約してもらえますか」
「はい、分かりました」

 これは1分半で終わりである。メッセンジャーだと、なまじっか「考える時間」が発生するため、「直感」による判断ができなくなる。電話だとすぐに結論をつけなくてはいけないため、スピーディにやり取りが進む。さすがに企業のM&Aやら採用ではもう少し慎重にならなくてはマズいだろうが、ビジネスにおいてそこまで深刻な判断はそうそうあるものではない。せいぜい、A案・B案・C案どれがいいかやら、会議の日程調整といったことなど、日常の判断で「コレで行く!」を決定することの方が多い。

同じことを何度も……

 そんな時、電話だと、思いをまくしたてることができ、すぐに意思決定ができるのである。このように電話の利点を述べると「でも、テキストだと証拠が残るから~」と言う人が出るが、「そんなに仕事相手のこと信用していないんですか……」と、呆れてしまう。「常に言った言わないの争いを恐れているなんて、仕事やりづらそうですね」と思う。

 ビジネスマンたるもの、その時々で最善の判断をしている、と自信を持たなくては成功できるワケがない。いちいち全員からの合意形成を得て、バランサーに徹するようなビジネスマンは結局、責任を取りたくないだけなので無能である。

 とはいっても、「長電話」は確かに、大問題である。だがこれも、電話が悪いわけではなく、これは私の27年間の社会人経験から分かるのだが、「電話がやたらと長いビジネスパーソン」というものが存在することが問題なのだ。私が考える、長電話しがちな人の特徴は以下の通りだ。

【1】同じことを何度も繰り返す
【2】こちらを糾弾することを目的とし、ネチネチと過去の過失(こちらにも言い分はあるが)を掘り起こし、それと今回の件を紐付けてくる
【3】バシッと結論だけ言えばいいのに、無駄なたとえばなしを交え、あたかも自分の頭が良いかのように振る舞う
【4】「私はあなたを理解しているんですが~」といった前置きを数分かけてしたうえで、再度こちらに対して文句を言ってくる
【5】上司から叱られた内容を事細かにこちらに伝え、それによって自分がいかに迷惑を被ったかをアピールする
【6】それまで説明したことを「今まで言っていたことをまとめますね。まずは……」から始まり、10分ほど一人で喋り続ける
【7】さらに、「長電話をし、相手をド詰めしているオレ、有能。上司へのアピールになっているなウヒヒ」と思う人もいる

優れたツール

 これは完全に「電話野郎」であり「電話バカ」である。これは本当に非効率で、メール一発で「あなたのココに不満がある、以下のように改善をしてください」とバシッと書けばいいだけだ。そういった意味ではメールやメッセンジャーの優れた点も当然ある。

 だが、長電話が趣味かのような無能の存在をもってして「電話はオワコン」というのは違うのではないか。私自身、今は半隠居生活だが、時々仕事の電話がかかってくると、2~3分で「10万円の仕事GET!」みたいなことは案外多い。

 電話というものは、短時間の合意形成においてはかなり優れたツールだと今さらながら思うのである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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