生活保護が高齢外国人に渡ることに… 年金制度を食い散らかす外国人の「脱退一時金」とは
年金をもらえない高齢外国人の問題
しかし、ここである疑問が湧きあがる。
先ほども指摘した通り、脱退一時金は外国人労働者がそれまで納めてきた年金保険料が返戻されるだけ。脱退一時金を申請すればその間の年金受給資格は喪失するため、帰国せずに申請しようが、繰り返し申請しようが、日本の年金財源にマイナスの影響が生じるわけではないのである。
もちろん、脱退一時金を繰り返し申請する外国人就労者は、将来、無年金となってしまう可能性が高いが、それはしょせん、自己責任。放っておけばよいとも思えてしまう。
だが小坪氏によれば、この「無年金の外国人」こそ、脱退一時金の一番の弊害なのだという。
「例えば永住資格を有する外国人が繰り返し脱退一時金を申請してきた場合、一部の例外を除き、年金保険料の納付期間が10年に満たなければ65歳を過ぎても年金を受給することができません。仮に10年間だけ保険料を納めて受給資格を得たとしても、最低限の年金額では到底、生活はままなりません。そうして無年金や低年金になってしまった高齢の永住外国人が、生活に困窮して生活保護を受給せざるを得なくなるケースが後を絶たないのです」
10年間で72万件
生活保護法は外国人をその支給対象に含めてはいないが、厚労省は“運用上”永住者などについても生活保護の支給対象としている。そのため、仮に永住資格のある外国人が脱退一時金を受給して帰国した後、再入国して「生活が困窮している」と生活保護を申請したとしても、各自治体の生活支援窓口では拒否できないのが現実なのである。
しかし、日本人には認められていない「年金の事前払い戻し」の恩恵を受けながら、日本人と同じように生活保護というセーフティーネットのお世話になれるのだとすれば、これこそ社会保障の二重取りではないか。
厚労省の年金局によれば、制度が始まった95年度当時、脱退一時金の裁定件数は6000件余りに過ぎなかった。ところが年を追うごとにその数は伸び、2009年度には5万件を突破。19年度には10万件を超え、21年度までの10年間の裁定件数は72万件にも上る。そのすべてが「抜け穴」を利用した申請だとは言わないが、相当数の「無年金予備軍」の外国人が隠れているのは厳然たる事実であろう。
「生活保護費は4分の3を国が負担し、残り4分の1をそれぞれの市が負担するという仕組みになっています。ところが、脱退一時金の申請により無年金や低年金になる恐れのある永住外国人がどこにどれくらいいるのかは誰も把握できていないのです。外国人就労者は全国に均等に分布しているわけではなく、受け入れる企業が集中している地域などに偏在していることが多い。そのような地域ではある年に突然、大量の無年金外国人が発生する可能性も否定できません。そうなれば地方自治体の財政自律権は害され、行政サービスの質が低下したり、最悪の場合、地方自治体の財政が破綻したりという可能性もあるのです」
追跡は不可能?
脱退一時金申請者を追跡するためには、厚労省が持つ何十万件という申請者の情報と入管のデータを突き合わせる必要がある。つまり現在のシステムでは「事実上不可能」なのだ。
だが、一筋の光明があるとすれば、意外にも「マイナンバー」の存在だという。
「マイナンバーは外国人であっても強制的に付番され、年金番号と違って帰国と再入国を繰り返しても基本的に同じ番号を使い続けることになる。15年の法改正によってマイナンバーは年金情報とひもづけられているため、マイナンバーを利用すればどの外国人が脱退一時金を申請しているかがたちどころに判明する可能性があるのです」
本来の番号制度とはかけ離れたマイナンバーカードに大量の税金をつぎ込み続ける岸田政権。だが、政府には保険証の廃止より先に取り組むべき喫緊の課題が山積しているのだ。
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