相次ぐ不祥事に川路利良は泣いている…148年前に編纂された「警察手眼」に見る警察官のあるべき姿
「声なきに聞き形なきに見る」
《上官ヲ補助スル深切ナル我補助官タル限リハ此上官ヲシテ其職ヲ安全ナラシメンコトヲ保任スヘシ上官ニ失体アレハ己其補助ノ足ラサル者トシ外ニ向テ恥チ内ニ取テ己ヲ責ムヘシ。己カ失体ハ上官ノ失体ナリ上官ノ失体ハ己ノ失体ナリト心得ヘシ》(巡査心得)
上官の補助は、徹底してやる。自分が補佐として在職する限り、上司を誤らせないようにする心がけが必要だという。上司が失敗した時は自分の補佐が足らないからで、外部に対して恥と考えないといけないし、心の中では自分を責めなければいけない。
「自分の失敗は上司の失敗、上司の失敗は自分の失敗――上下一体の心構えです。別の項では部下に対しては私心を捨て、公平でなくてはならないとも説きます。最近は警察でもパワーハラスメントで処分される警察官が増えました。それも上司から部下へだけでなく、適切な指揮をしない上司に部下が無視したり悪態をついたりするという事案もありました。組織ですから気の合わない上司の下につくこともありますが、階級に関係なく胸に刻みたい一文です」(前出・警視庁OB)
《探索ノ道微妙ノ地位ニ至リテハ声ナキニ聞キ形ナキニ見ルカ如キ無声無形ノ際ニ感覚セサルヲ得サルナリ》(探索心得)
捜査の極意である。隠れていたものを明らかにし、偽りの中から真実を発見する。その手段は隠密に、あるいは公然と、またはわざと油断を見せて相手を誘い込むことも必要だ。耳はウサギのように鋭敏で、鼻は犬のように敏感で、目は千里の向こうまで見通せなければならない。声(情報)にならず、形(犯罪)に現れるより前に感知すべき。
《怪シキ事ハ多ク実ナキモノナリ決シテ心ヲ動カスへカラス然レトモ一度耳ニ入ルモノハ未タ其ノ実ヲ得スト雖モ亦怠ラサルハ警察ノ要務ナリ》(探索心得)
噂話は確実な事実がないものが多く、すぐに消えることも多い。しかし、『火のない所に煙は立たず』の例え通り、一度、おかしな噂を聞いた時はあらゆる方面から噂の周辺を探り、その真否を捜査することは警察の大事な仕事である。
「声なきに聞き、形なきに見る。いつの時代になっても通用する捜査の極意だと思います。今はネットやSNSで情報が氾濫し、各種犯罪の温床にもなっています。事件の端緒はいたるところにある現代ですが、捜査の基本は変わりません。令和の時代になっても、川路の説いた警察官の心得は不変です」(前出の元警察キャリア)
註:荒木征逸・著『全訳警察手眼』(警察時報社)から一部を引用・参考にしました。