大ブレイク「河合優実」の存在を忘れてしまうほど…朝ドラヒロインに「最も近い女優」の実力と役作りの秘密
若手屈指の実力派
このドラマを土台から支えているのは河合にほかならない。河合はユーモアのセンスが抜群で芯の強い七実にしか見えない。河合個人の存在を忘れてしまうほど。どの作品でもそうだ。お手本のような演技である。
河合は憂いを感じさせるので、山口百恵さん(65)と似ていると言われるが、役柄の人物に成りきれるところは田中裕子(69)、黒木華(34)らと近いのではないか。若手屈指の実力派であるのは間違いなく、朝ドラのヒロインに最も近いと言われているのも納得である。
朝ドラのヒロインはその作品の制作統括が決める。朝ドラの制作統括になる可能性のあるNHKのドラマ制作者たちから河合は買われているので、やはりヒロインの最有力候補だろう。
NHKの話題作「17才の帝国」(2022年)には準主役級の1人で出演した。宗教2世を描いた同局の「神の子はつぶやく」(2023年)には主演し、その演技で放送文化基金賞を得た。
「神の子はつぶやく」で、河合は母親が信仰する教団の教えによって部活も遊びも禁じられ、修学旅行にも行かせてもらえず、苦悩する女子高生の遥に扮した。やはり遥にしか見えなかった。
10月からは次期朝ドラ「あんぱん」にヒロイン・今田美桜(27)の妹役で登場する。妹役はヒロインへのパスポートというのは俗説に過ぎないが、同局制作者たちに評価されているのは間違いない。
どうして河合は演じる人物に成りきれるのか。それは気持ちと役柄を一体化させるかららしい。公開中の主演映画「あんのこと」の撮影前にはこう考えたという。
「脚本を読んだ瞬間に自分の中に揺るぎないものが 湧き上がって、その気持ちの強さをずっと持ち続けようと思ったし、(演じる)杏という役とそのモデルとなった女性の手を掴んで絶対離さないでいよう、ということを役作り云々より前に、強く思っていました」(放送批評懇談会「GALAC」7月号)
この映画で演じているのは過酷な運命を背負った21歳の女性・杏。ストーリーは2020年6月1日付の朝日新聞朝刊に載った実話に基づいている。
杏は幼いころから母親による虐待を受けた。小学校4年生から学校に行かなくなり、12歳になると、母親から体を売ることを強要される。やがて覚せい剤に依存するようになった。
しかし、薬物依存者の更生を支援する刑事らと知り合ったことから、母親から離れる。介護の仕事を始め、夜間中学にも通い始めた。介護福祉士になるという夢も持った。
ところが、そこへコロナ禍が襲い、全てを破壊する。杏は行き場の全てを失い、絶望の淵に立たされる――。
杏の軌跡を知ると、陰鬱な女性を思い浮かべてしまいがちだが、河合が演じた杏は違った。時には屈託のない笑顔や希望に満ちた表情を見せた。生身の人間なのだから、そういうものだろう。やはり河合は役柄に成りきった。
「自分と育ってきた環境が遠い役だったので、それが身体的にどう表れるのか。歩き方や箸の持ち方を考えたり、杏がどういう文字を書くのか監督と試してみたり。服装やメイクなども含めて、スタッフの皆さんにも協力してもらって緻密に作っていきました」(「GALAC」)
役柄と気持ちを一体化させた上、その人物の特徴を出来る限りトレースする。成りきれるはずである。
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