「リポビタンD」広告の“性差別”論争で思い出す「マルちゃん正麺」の神対応 広告が“炎上”したら企業は常に謝罪すべきか?

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なんで母親に洗わせるのか

 彼ら(彼女ら)が都知事選にその熱い思いを投入した結果、リポDについては一過性の怒りに終わったのではないだろうか。そして、蓮舫氏が3位に終わると「蓮舫氏への誹謗中傷が酷かった」「蓮舫氏は女性差別の被害者だ」という論調になった。しかし「小池さんだって女じゃん」と言われると「小池は自民党の男政治とベッタリで、小池は『名誉男性』だから蓮舫さんと同じように扱えるわけがない」という反論が来る。

 また、ジェンダーに関心のある人でも、そのレベルに濃淡がある。作家の室井佑月氏もジェンダー平等に高い関心を持っているが、夫の米山隆一氏が衆議院選挙で当選すると「内助の功」のように言われた。これに反発した人々がなんと室井氏に対して侮蔑的なあだ名をつけたのだ。当然室井氏もその発言をした人物から離れるし、そこまで過激ではない人々が去ってゆき、結果的に声の総数が減ったというのもあるかもしれない。

 再度言うが、とにかく企業は一部の声の大きい人の意見に従う必要はない。その分かりやすい例が2020年、東洋水産の「マルちゃん正麺」のウェブ漫画『親子正麺』だ。第一話はコロナのステイホーム期間中の親子3人を描くもの。父親はリモートワークをし、母親は恐らく医療従事者。家にはいない。夕食は息子と一緒にマルちゃん正麺を食べる。

 これが「炎上」したということになったのだ。私はまったく意味が分からなかった。しかし、どうやら最後のコマで子供が食卓に座り、母親が食器を洗い、父親が食器を拭いている様子が逆鱗に触れたらしいのだ。「なんでラーメンを食べていない母親に食器を洗わせるんだ!」と。

今後はそうした意見も汲み取ろうくらいで

 制作元の東洋水産はその後問題ないとの声明を発表。ここで見事な対応だったのが、第一話公開時には作者の名前がクレジットされていたのだが、騒動以後「作 マルちゃん正麺広告制作チーム」に代わり、〈※「夫婦正麺」並びに「親子正麺」の原作は弊社責任の下に制作し、作画のみ作画者の方に依頼しております〉の注意書きが書かれるようになった。この漫画を描いた本人にも批判が寄せられたことから、作者を守るためにこのようにしたのだ。この姿勢は高く評価された。

 いずれにせよ、ネットの多くの人々は「良い」と思っても声をあげないし、あまりにも反対派の声が大きいと「まぁまぁ、目くじらたてなさんな」となる。それが実際のネット世論なことが多いわけで、安易に「炎上」と捉えないでいい。「疑問を抱く人もいたね。ふーん、今後はそうした意見も汲み取ろう」程度の考えで済ませても構わないのだ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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