「リポビタンD」広告の“性差別”論争で思い出す「マルちゃん正麺」の神対応 広告が“炎上”したら企業は常に謝罪すべきか?
2人揃って育児休暇なんて……
続いては微妙なラインだが、ユニ・チャームのおむつ「ムーニー」の広告では、生まれたばかりの赤ちゃんの世話をしながら、買い物・料理・掃除などの家事に忙殺され、赤ちゃんが泣けば夜でも起き、濡れたままシャワーから出てきて面倒を見る母親が登場する。もちろんおむつのシーンも登場する。
父親は産婦人科のシーンで頭が映るのと、その後、母親が慌てている時に「どうした?」という声、あとは赤ちゃんが熱を出して病院へ行くと思われるシーンでタクシーの後部座席に一瞬映るだけ。途中、母親はあまりの忙しさに呆然とし、涙を見せるが、最後は子育ての素晴らしさを知り笑顔になる。
つまり「ワンオペ育児」を描いているのだが、最後のコピーで「その時間が、いつか宝物になる」とある。これが「ワンオペ育児の容認」に繋がり、「子育てをしない夫の肯定」と解釈されたのだ。或いは「夫は外で仕事、妻は家で家事と育児」という決めつけである、という批判も出た。確かにこのCMは、育児を妻に押し付けているという表現だった。とはいっても、夫と妻がかわるがわる家事をしているような広告だったら「幸せと辛さの落差」といった表現になりづらかったし、「2人揃って育児休暇を取れる企業なんてない」といったツッコミも入っただろう。
都知事選の影響
要するに、どんな表現が人々の逆鱗に触れるかは分からないのだ。明確な差別がない、と企業が判断するのであれば、臆することなく堂々とその広告を出し続ければいい。出稿から数日間はネットで文句を言う人がいたり、抗議電話が来たりするかもしれないが、その間をやり過ごせば落ち着くし、その後冷静なネットの声で「アレがなぜ『炎上』ということになったか意味不明」といった総括をされることになる。
リポビタンDの広告については現にそうなっている。せっかく知恵を絞って作った広告、さらには高額の契約金を著名人に支払ったものを、ノイジーマイノリティのクレームで取り下げるのは、明らかな過剰反応である。
私は2週間に1回、広告会社の会議に参加している。この会議では、世の中の空気感や、最近の広告・メディア・企業活動のトレンドなどについて話し合う。実はこの場でも、リポDの件が話題に上ったのだが、参加者全員の感想が「これは『炎上』とまでは言えないのでは」というものだった。
その理由について会議では、先に私が述べた要因に加えて、「都知事選があったからでは」という意見が上がっていた。つまり、普段、こうしたジェンダー問題が発生したらSNSで声高に叫ぶ人が、今回は蓮舫氏の応援にまわり、石丸伸二氏の支持者と激しいバトルを繰り広げ、石丸氏と小池百合子氏の批判キャンペーンを展開していたのではないか、というわけだ。
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