なぜ「日本のアニメ」はサウジアラビアを熱狂させるのか? 「クールジャパン」を凌駕する、外務省「アニメ文化外交」の知られざる功績

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第1回【公式Xはフォロワー280人…巨額赤字「クールジャパン」が再始動も“現場のアニメーター”は置いてけぼりの実態】からの続き

 日本のコンテンツを海外に展開すべく設立された「クールジャパン機構」が累積赤字を抱え、さらに主力であるはずのアニメ産業には投資されておらず、その役割の見直しが検討されている。そんな中、かつて外務省が行っていた文化外交が日本のアニメを世界に広めることに貢献していたという。

(全2回の第2回)

 筆者は、近年になって海外に日本の漫画家やアニメーターの色紙や原画、直筆イラストを熱心に蒐集するコレクターが増加していることに驚いている。大手古書店「まんだらけ」の古川益三会長は筆者のインタビューに対し、中国やフランスは言うに及ばず、サウジアラビアなどの中東からも自社のオークションに参加する人が少なくないと話していた。

 取材のなかで、サウジ出身のアニメファンに出会った。彼はスタジオジブリ作品の原画やセル画のコレクターであり、京都アニメーション放火事件で亡くなった高名なアニメーターの直筆イラストを「数百万円出してでもほしい」と話していた。聞けば、実際にオークションなどを通じて、そうした品物を買い漁っているのだという。アニメにかけるその情熱は、日本のアニメファンを超えているとさえ感じた。

 筆者は今回の取材を通じ、サウジでなぜ日本のアニメブームが起きているのか、理由を解明したかった。そこで、大手アニメ会社の元執行役員で文化政策に詳しいA氏に疑問をぶつけると、意外な言葉が返ってきた。なんと、クールジャパンが推進される以前に、外務省がサウジなどで展開したアニメ文化外交にそのルーツがあるというのである。

「もともと現地の若者たちはインターネットや海賊版を通して、日本の文化に触れていました。そこで、サウジの文化情報省が、日本の外務省に仲介を依頼。2008年に開催されたリヤド国際ブックフェアに日本が招待された際、ポップカルチャーに精通した研究家の櫻井孝昌さんが派遣され、当時は映画館すらなかったサウジで日本のアニメを上映したのです。現地の人々は熱狂したと報告されています」

2000年代前半の評価されるべき文化外交

 そう、「ドラゴンボール」のテーマパークがサウジに設立されることが決まった“種”は、この時代に蒔かれていたのだ。2008年の上映会が大成功に終わった後も、サウジのアニメ人気は白熱していく。2017年には35年ぶりに映画館が復活、いまでは中高生を対象にマンガやアニメの作り方を教える国にまでなっている。

 現在では、日本国内の少なくないアニメスタジオがサウジから仕事を受注しており、山手線の広告をサウジ産のアニメがジャックしたことも記憶に新しい。サウジが日本のコンテンツを愛してやまないのは、かつての官民一体となったアニメ文化外交の取り組みが、時間をかけて花開いた結果と、A氏は指摘する。

「少なくとも、2005~12年頃の政府と外務省は、文化外交に真剣に取り組んでいた。2008~10年、外務省にはアニメ文化外交に関する有識者会議があり、『名探偵コナン』のプロデューサーとして知られる読売テレビの諏訪道彦さんや、のちにアニプレックス代表となる植田益朗さんらが名を列ねています」

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