坂本龍一は「やさしい人」「朝ドラを観ながら朝食を食べていた」 盟友・大貫妙子が振り返る“巨匠”の素顔と14年前の名盤

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朝ドラを観ながら朝食

 もう1つの見どころは、70年代からの古い付き合いである2人のトークだ。

 例えば大貫さんの曲を演奏する際、坂本さんが「(原曲は)僕のアレンジじゃないですよね」と少しすねたようなニュアンスで言うと、大貫さんは「今回が新しいアレンジですよ」とおおらかに返す。それでも坂本さんはライブの終盤でも同じことを言い、「結構根に持つタイプなんです」と場内の笑いを誘う。

 映画音楽の話になると、坂本さんは「映画の添え物ですから」と謙遜し、制作環境の厳しさを「大変なんですよ」と嘆く。大貫さんが作品を称賛しても「またまた」といった調子で冗談めかすものの、「ご苦労様です」とストレートに言われると、どこか照れたようなリアクションを返す。

 そこには冗談を好む気さくな坂本さんの素顔がある。トークイベントでの大貫さんは、寝食を共にした10日間のレコーディングはリラックスしたムードで、坂本さんがNHKの朝ドラを見ながら朝食をとっていたことなども語った。

耳が反応しちゃって涙が止まらない

「坂本さんは本当にね、『犬の耳』と私が呼んでいるように、本当に耳の良い人で、レコーディング中にどれだけ彼が涙を流していたかって、いろんなインタビューで私は答えてるんです。私なんかには聞こえないようなすごい高音とか、彼が若い頃は特に聞こえてて、悲しいわけじゃなくて、それに反応してもう涙が止まらないっていうことがよくあったんですよ。『私なんか悪いこと言ったのかなあ。泣いてる?』って言うと『この音に耳が反応しちゃって勝手に涙が止まらない』って」

 そんな坂本さんを、大貫さんは「やさしい人」とも語った。坂本さんが旅立ってから1年と4カ月の間、巷では「知的でクールな巨匠」のイメージが出来上がり、長年のファンですら「FM番組で軽口を叩いていたような教授」がはるか昔に感じられる。このライブ映像は、そんな近年のイメージを良い意味で“軌道修正”してくれるかもしれない。

『UTAU LIVE IN TOKYO 2010 A PROJECT OF TAEKO ONUKI & RYUICHI SAKAMOTO』 7月25日(木)まで109シネマズプレミアム新宿にて上映中

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