沖縄の「エナジック」、創部3年目で甲子園初出場なるか? 超高校級の“強肩捕手”は「甲斐2世」の呼び声も

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驚異の「セカンド送球タイム」に筆者も舌を巻いた

 視察に訪れていたスカウト陣のひとりは、龍山について、以下のように語る。

「肩の強さは、(高校ナンバーワン捕手の呼び声が高い)健大高崎の箱山遥人より上ですね。今年の高校生の中で見ると、全国でトップかもしれません。セカンドベースの近くでもボールの勢いが落ちない。“本物の強肩”だと思います。身長は大きくありませんが、体つきはしっかりしています(身長172cm、体重76kg)。バッティングではパンチ力もありますね。キャッチャーに大事な集中力や洞察力には足りない部分がありますけど、基本的な能力は高いので、しっかり鍛えればいいキャッチャーになるかもしれません」(九州地区担当スカウト)

 捕手の実力を確かめるうえで、重要な指標のひとつに、イニング間の「セカンド送球タイム」がある。2.00秒を切れば“強肩”と言われるが、筆者が明豊戦で龍山のタイムを計測したところ、最速で1.80秒をマークした。

 このタイムは、現地で視察した大学生や社会人、独立リーグを含む約200試合に出場した捕手のなかで、トップの数字だった。将来的には、ソフトバンク・甲斐拓也のような日本を代表する強肩捕手に成長することが期待できる素材だといえる。プロ志望届を提出すれば、10月のドラフト会議で名前を呼ばれる可能性も高い。

チームの強みは、機動力

 ただし、指導経験豊富な指導者と力のあるキャッチャーがいるだけで、エナジックが強豪校を倒せるわけではない。チームの強みは、機動力にある。身長180cmを超える大型選手が少ない一方で、足を使える選手は多く揃っているのだ。

 野球で走塁のスピードを評価する指標のひとつに、打ってから一塁ベースまでの到達するタイム(一塁到達タイム)がある。「4.20秒」を切れば“俊足”と言われるのだが、筆者が明豊戦で計測すると、5人の選手がクリアしていた。これは、甲子園に出場するチームと比べても多い。夏の沖縄大会でも、ここまでの3試合で6盗塁を記録しており、エナジックの機動力は、相手にとって脅威となっている。

 一方、守備面に関しては「超高校級」と言えるようなスピードボールこそないものの、タイプの異なる複数の投手を揃えている。また、ここまでの夏の3試合で失策0と守りも堅い。

 今年から反発力が弱い新基準の金属バットが導入され、全体的に長打が減っているだけに、「機動力で確実に得点を重ねて、堅い守備で守り切る」というスタイルが上手くはまっているようだ。

 2002年夏には創部2年目の遊学館(石川)が甲子園初出場を果たして、ベスト8に進出して話題となったが、今年のエナジックもそれに近い勢いが感じられる。

 果たして、快進撃は続くのか――。

 エナジックは決勝進出をかけて、準決勝でウェルネス沖縄と対戦する。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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