“石丸旋風”でも恐ろしさが明らかに ネットの「おすすめ」に導かれていたら日本は滅ぶ

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多くの若者は新聞を読まないので

 日本新聞協会の発表では、2023年10月時点で新聞の発行部数は2859万486部で、前年から200万部以上も減少している。2000年には5370万8831部だったが、2010年に5000万部を切ってからは加速度的に減少し、23年で47%も減ってしまった。また、1世帯あたりの発行部数が2023年に0.49部になり、はじめて0.5部を下回ったという指標もある。

 だが、正直にいえば、まだこんなに多くの部数が発行されているのか、という感想も同時に抱いた。なぜかといえば、20代や30代、そこに40代前半を含めてもいいかもしれないが、若い層に聞くと、圧倒的多数は新聞を購読しておらず、彼らの周囲の同世代のあいだにも、購読者はほとんど見つからない、という話になるからである。つまり、昔から新聞を読んでいる世代は購読し続けているが、若い世代には購読の習慣がない、ということだろう。

 新聞はそれぞれにカラーがある。具体的には、朝日新聞や東京新聞と、読売新聞や産経新聞では、選ばれている記事も、その大きさも、論調も、大きく違っている。だから、かつてはある1紙しか読んでいないと、偏った考え方に陥りかねないという警鐘も鳴らされたものだ。しかし、いまでは若者の大半は1紙も読んでいない。そういう彼らがネットを通じて、彼らの嗜好に合わせてAIがピックアップした情報ばかりに接していたら、どうなるだろうか。仮に、そのことが、石丸氏が善戦した理由だとしたら恐ろしい。

 リベラルな新聞でも、右派的な新聞でも、なんでもいいから1紙でも読んでいれば、種々の情報を比較対照させ、さまざまな考え方があることを知って、ネットですすめられた情報を客観的に眺めることもできるだろう。しかし、そういう機会がないまま、AIにすすめられた情報にばかり接していると、狭い部屋に閉じこめられて、新興宗教の教祖の説教を聞かされているのに近い状況に陥りかねない。若者の新聞離れとネット依存には、そういう危険性が潜む。

 あるいは、テレビのニュースを見るだけでもいい。自分が好む情報だけに接することを避ける、ということを、若者はもとよりだれもが意識しないと、恐るべき衆愚に導かれることになりかねない。そのことに、背筋が寒くなるような怖さを感じるのである。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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