拘束されたイオンの日本人幹部は“有罪”の可能性が… 「米」をめぐるミャンマー軍事政権の無茶苦茶

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戦況が左右する「物価」

 背景にあるのは、物価の高騰だ。ヤンゴン在住の邦人は「まず今年に入ってから物価が上がり、去年の2倍以上になっていました。4月の水かけ祭り(ティンジャン)以降、また倍になり……去年と比べると4倍です」という。

 6月以降、政権は物価の引き下げに躍起になっているかに見える。高騰を招いている要因のひとつが、地方での戦闘だ。クーデター以降、国軍は民主派や反発する少数民族を武力で弾圧しつづけてきた。しかし昨年の10月27日に、地方の3つの少数民族軍が一斉に蜂起した。そこに民主派の軍事組織も加わり、多くのエリアで国軍は劣勢に立たされている。

 なかでもタイとの国境に広がるカレン州の戦況が、最も物価高騰に影響を与えている。ミャンマーに流通する物資は、タイからの輸入に頼る割合が高い。その物資が大幅に減ったうえ、荷には通行料などが加算され、物価の高騰を招いているのだ。一時はタイ国境の街・ミャーワディも、反国軍派が占領するまで国軍が追い込まれたが、その後、反国軍派の一部の寝返りや国軍兵士の増員などがあり、現況は混沌としている。国境からヤンゴンにつながる道は、さまざまなグループが支配し、それぞれが通行料を徴収する事態となっている。

「従業員の給与を上げた」ことで拘束も…

 物価高騰に対し、軍事政権は権力で抑え込むという、経済状況を無視した政策に出ているというわけだ。

 経済環境の悪化は、ミャンマーの通貨チャットの暴落を招く。3月には1ドル3,700チャット(約180円)ほどだったが、6月に入ると1ドル5,000チャット(約245円)まで下がった。人々はチャットをドルや金に替えようとしたが、これに軍事政権は「暴落の原因は両替業者や金の販売業者」として35人を逮捕した。政権トップのミンアウンラインは6月10日に行われた国家統治評議会の場で「恥知らずの業者のせいでチャットが暴落した」と逮捕の理由を語った。この一件で、ミャンマーの金相場は崩壊したといわれる。

 また6月13日には「従業員の給与を上げた」ことを理由に会社の社長を拘束した。物価の上昇は給与の上昇が招いている、という論理である。

 7月に入っても、政権は圧力を弱めるどころか、強める一方だ。7月2日には、不動産融資を限度額以上貸し付けた銀行の行政処分を行った。不動産価格の高騰は、資金を貸した銀行側にあるという発想である。

 ヤンゴンの日本人社会からはこんな声も聞こえてくる。

「こんな状況なら、早く選挙をやって、国軍トップのミンアウンラインを大統領にしたほうがいい。そうすれば経済の専門家を政権に入れることができる。いまは軍人ばかり。あまりに無知、子供です。これで物価の高騰が収まると思っているから怖い」

 しかしミャンマー人は「あえて物価を高騰させている」という見方だ。

「国軍の兵士不足が深刻な今、暗に“国軍の兵士になれば金が入る”ようにしているのです。なぜなら、米を実勢価格で売る小売業者からは賄賂が渡されますし、銀行への行政処分だって、国軍系の銀行は含まれていない。物価高騰に苦しむ国民を利用して国軍を守る図式です」

 米の流通では大きな混乱は起きていない。市民に聞くと、地方の実家や親戚から米を送ってもらってしのいでいるという。市民はすでに軍事政権の経済政策を見限っているようだ。ミャンマーの経済は機能不全に向かっているということか。

現地ジャーナリスト

デイリー新潮編集部

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