クジラ肉が“庶民の味”から“高級食材”に進化…“商業捕鯨”再開から5年で様変わりした「捕鯨新時代」の実状

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「100年捕り続けても心配なし」で「SDGs」にも貢献

 かつて1960年代の前半には20万トン以上消費していたため、ピーク時の100分の1ほどに急減している。竜田揚げやベーコンといった、かつて庶民の味だったクジラ料理を懐かしむ声も、次第に影を潜めるようになっている。

 共同船舶の所社長は、日本人がクジラを食べるべき理由について、牛、豚、鳥の生産には多くの穀物が必要なのに対し、捕鯨にはその必要がないばかりか、

「クジラは食物連鎖の頂点にいるため、世界で人が食べる水産物の3~5倍を餌として食べていると試算されており、適当に間引いて生態系のバランスを保ってあげなければいけない」と強く訴える。

 国が認めた商業捕鯨の枠は、かつてIWCが採択した改定管理方式(RMP)と呼ばれる手法で算出されており、それぞれ「100年捕り続けても大丈夫」(水産庁)というレベルに設定されている。

 共同船舶はクジラ消費を喚起しようと、今年5月上旬、東京・千代田区に直営レストラン「ラ・バレーナ・ネル・パルコ」をオープン。おしゃれな雰囲気の店内で、さまざまな料理を提供し、人気となっている。

 イタリアン出身のシェフが作り出すクジラ料理は、ステーキ風のタリアータや、炙り寿司、パスタなど、どれも魅力的な味わいという(ディナーのコース料理はデザート、コーヒーまたは紅茶付きで8000円ほど)。

「スーパー・シー・ミート」を味わってほしい

 一方、東京・港区でクジラ料理専門店「鯨の胃袋」などを経営する「ひとうみ」の大越勇輝社長は、手軽にクジラ料理を味わってもらおうと多くのメニューを提供。週末には、クジラのステーキやにぎりずし、煮込み、竜田揚げなど、税込み3900円で食べ放題といった格安メニューを掲げ、予約が殺到しているという。

 大越社長は「クジラはおよそ50種の部位に分けて販売され、それぞれが特徴的。背や腹の赤肉などは旨味が強く、高タンパク低脂肪。ベーコンなどに使われる畝須(ウネス)や皮下脂肪部位の本皮などは、オメガ3不飽和脂肪酸が体内から人間の身体を綺麗にしてくれる。昔は国民食だった鯨肉、今後は“スーパー・シー・ミート”として、若い世代に広まってほしい」とアピールする。

 少々値が張るクジラ料理は今、かつての庶民の味から、ちょっぴり贅沢で選択的に消費する食材へと進化している。捕鯨の歴史を振り返りつつ、少なくとも今、捕っても食べても問題がない海産哺乳類であり、おいしくて魅力的な食材であることは間違いなさそうだ。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)など。最新刊に『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)。

デイリー新潮編集部

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