中国経済はバブル崩壊時の日本よりはるかに酷い…長期低迷で「親ガチャ」化する社会は政情不安につながる

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新卒生の過半数が卒業と同時に失業

 中国政府関係者はかつて「バブル崩壊後の日本経済を十分に研究した」と述べていたが、「何を勉強したのか」と言いたくなる。このままでは、かつての日本と同様、中国も「失われた30年」に突入するのは間違いないのではないだろうか。

 バブル崩壊後の日本ではしわ寄せが若者たちに集中したことから、大量の「就職氷河期世代」が生まれた。その負の遺産は今も解消できずにいる。

 中国の現下の情勢は、当時の日本よりはるかにひどいと言わざるを得ない。今年の新卒大学生の内定率(4月中旬時点)は前年比2.4ポイント減の48%だ。このことは新卒生の過半数が卒業と同時に失業するリスクに直面することを意味する。

 生活に不安を抱える若者の間で、毎月高い貯蓄目標を設定する「リベンジ(報復)的貯金」が流行しているようだ。リスク回避の志向は現在の日本の若者と同じに見える。

 日本以上のペースで進む「少子高齢化」も深刻な問題だ。

 中国では「公共の場での赤ちゃんの声が煩わしい」との声が高まっていることや、閉鎖された幼稚園が介護施設となるケースが注目されている(5月10日付・7月15日付Record China)。子育てに不寛容になりつつある社会の下では中国の少子化はますます進行するばかりだろう。

失効しつつある「共産党と国民の社会契約」

 筆者が注目しているのは、中国人の間で「現行の経済システムにおける不平等が資産を築くチャンスを奪っている」との認識が広がっていることだ。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)が9日に発表した調査結果によれば、「裕福な家庭で育つことが豊かになれる主な要因だ」と考える中国人の割合が最多となった。この回答がトップになったのは過去20年間で初めてだという。一方、2004年に62%に達していた「わが国では努力が必ず報われる」という意見に賛同する人の割合が26%に激減した。

 習近平国家主席は「共同富裕(共に豊かになる)」運動を推進しているが、所得格差は是正されず、中国人の平均所得の伸びは1980年代後半以降で最も低くなっている。

 不景気が続いた日本では「親ガチャ(家庭環境によって人生が大きく左右される)」という言葉が人口に膾炙するようになった。不況が長期化しつつある中国でも、「親ガチャ」化する社会への不満が急速に高まっている感がある。共産党と国民の間に社会契約(豊かな生活を保障する代わりに一党支配を行う)が成立していると言われてきたが、それが失効しつつあるのだ。

 経済の長期低迷が中国の政情不安につながらないことを祈るばかりだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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