なぜか詐欺事件を名目に、ある日突然、公安部の刑事がやって来た…同業他社の社長が語る「大川原化工機冤罪事件」

国内 社会

  • ブックマーク

工場中にまき散らされてしまう

「生物兵器の製造に転用可能」という点にも高橋社長は疑問を呈する。

「この装置で生物兵器のための粉末状の怖い菌を作ったとしても、取り出す時は当然、飛散します。装置を洗っても、洗った後の水などはどうするのか。そもそもあの装置で自動的に殺菌できるという考え方がおかしいんです。一般的な製品で生物兵器を作った時に、死滅させる菌の耐熱性などがわからない以上、それを殺菌できる・できないという考え自体が無理筋。例えば、次亜塩素酸で拭いても死なないものなら殺菌できない」

 高橋社長は普段から人体に強い刺激を与えるような原材料を扱っていない。洗浄や廃棄の難しさがその理由だ。

「危険物というか、目を刺激するような刺激物は一切断っています。洗ったりすれば工場にも菌が残る。うちで廃棄処理する際は、掃除機のへパフィルターのようなバグフィルターを通します。99.9%、粉末は抑えられますが、揮発するものは駄目。スクラバー(排ガス処理装置)でやっても100%ではない。危険物ならもっと大変です。工場中にまき散らされてしまいますから」

 どうしても噴霧乾燥機で生物兵器用の菌を作るのなら、凍結乾燥をするしかないという。

「フリーズドライです。バッヂ、つまり容器単位でケーキ(固体)にして作る。ケーキなら注意深く扱えばできなくはないかもしれない。でも、噴霧乾燥機で生物兵器の細菌が作られたことなんて世界でも絶対にないと思いますよ。冶金(やきん)会社など特定のところでないと増えない培地ならあるかもしれない 。しかし、炭疽菌なんかをスプレードライヤで作るなんて自殺行為は中国でもまずないでしょう」

経産省は逃げている

「大川原さんは食品より工業用の化成品が多いんです。金属酸化物なんかは塩素酸だって溶けないけど、 口に入るものではないから殺菌する必要もない」

 スプレードライヤが規制品目に加わったのは2013年だった。経産省がその省令を作る際、大川原化工機の社長がアドバイザーを務めたという。

「規制品に選んだ時にもっと詰めるべきだったのでは。グローバル化して海外がやっているからというだけで規制が強まります。今、問題になっている食品材料のポジティブリストも、禁止されている材料が入っていない証明をしなくてはならない。しかし、厚労省が作ったリストなのに、管轄している厚労省は丸投げですよね。

 何年も前から使っているものが、ある時、突然、使えなくなるのかという不安が業界では大きい。完成品ではなく何かを製造するためのツールが輸出規制違反に該当するというなら、何でも当たってしまう。ウクライナの戦争でのドローンは、プラモデルに使われているような高性能な小型モーターも用いられている。でも、それは完成品ですから。規制のし方に疑問があります」

 具体的に『こういうものが駄目』とアドバイスできない役所が法律を作っている。経産省も大川原さんの件で『うちが(外為法の貿易管理令を)作った』と言えない。『作った時はこうだったが、今回は解釈がおかしい』と警視庁に言うべきなのに逃げている。大川原さんと警察の間に入らなくてはならなかったのに、それを全くしていない」

次ページ:今まで普通に使ってきた製品が

前へ 1 2 3 4 次へ

[3/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。